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第29章

第29章


アンドレイは東へ急いでいた。彼の目的地は高い山脈だった。

ウラルを離れながら、彼は無意識に師であるレオのことを思い出していた。


その言葉と教えが、再び心に浮かぶ。


――これからの試練に備えるには、レベルを上げ、能力を強化する必要がある。


静かな緑の草原で足を止めると、アンドレイは姿を変えた。

カイルの姿から、アバター“アレクサンダー”へ。


彼はインベントリを開き、装備を丁寧に確認していく。


そこには新しいアイテムがいくつか追加されていた。


反応速度強化の軽装鎧

戦闘用の刃


それぞれを装備し、調整していくと、身体能力の変化がはっきりと感じられた。

敏捷性は上がり、反応は鋭くなり、力はより均衡の取れたものへと変化している。


準備を終えると、彼は影の狼に飛び乗った。


狼は周囲の空気を嗅ぎ取り、危険を素早く判断する。


最初の試練は草原に現れる単体モンスターたちだった。


レベル15〜18の巨大な森猪

レベル12〜16の奇襲型の蜘蛛

レベル10〜14の野生ヤギ


アンドレイは軽やかに攻撃と回避を繰り返す。

新装備の効果は明らかだった。動きは軽く、反応は鋭く、戦闘はより滑らかになっていく。


だが本当に重要だったのは装備ではない。


経験だった。


一年の戦闘、数百の戦い、無数の試練。

それが彼を“戦闘の熟練者”へと変えていた。


敵の隙が見える。

風の流れが読める。

攻撃の軌道が予測できる。


夕方になる頃、彼はレベル24に到達していた。疲労はあるが、満足感があった。


その時――


風の中に重い低音が混じった。


アンドレイの表情が一瞬で変わる。


前方に、オークの軍勢――約200体。


角笛と斧が夕焼けに光り、森の道を揺らしながら進んでいる。


彼は周囲を見渡した。


誰もいない。


迷いはなかった。


彼は即座にアバターを切り替える。


そして現れたのは――“リリス”。


その姿は美しさと恐怖を同時に持っていた。


半透明の黒い霧のようなローブ。

銀色に輝く肌。

紫の光を宿す長い髪。

そして血のように赤い瞳。


わずかに歪んだ微笑みが、その存在の危険さを際立たせている。


アンドレイは確信した。

これは偵察にも殲滅にも最適な形態だ。


彼が手を上げると、幽霊のようなハーピーが空に現れた。


透明な翼。青白い瞳。

音もなく空へ散り、周囲を偵察する。


やがて声が届く。


「オークの軍勢は村へ向かっています」


リリスは静かに前へ出ると、古代語を紡いだ。


地面と空気が震え、霧の中から巨大な霊馬が現れる。


その体は透明で、星屑のような光が内側を流れていた。

蹄は地面に触れず、風の上を滑るように進む。


彼女はその背に飛び乗ると、一気に戦場へ突入した。


霊体化。


リリスの身体は完全な非実体となる。

剣も槍も矢も、彼女には届かない。


彼女はオーク軍の中心を一瞬で切り裂いた。


軍勢は二つに分断される。


混乱。


悲鳴。


恐怖。


攻撃はすべて空を切る。


ハーピーたちも上空から襲いかかり、視覚的には存在しない攻撃で軍を崩壊させていく。


オーク軍は完全に崩壊した。


統制は失われ、逃走が始まる。


リリスは追撃しない。


静かに戦場を見下ろすだけだった。


任務は終わった。


そして――


村はそのことを知らないまま、日常を続けていた。

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