第14章
第14章
夕方になると、部隊はそれぞれの使い魔を呼び出し、シルヴァナと共に北へと進んだ。背後には、さきほどまで存在していた危険の痕跡が少しずつ遠ざかっていく。
やがて一行は安全地帯へと到達する。そこは岩場と針葉樹の間に広がる平坦な草地で、ようやく一息つける場所だった。
エルフたちはすぐに野営の準備を始めた。テントが張られ、魔法の灯火と焚き火が次々と灯される。緊張に満ちた一日の後とは思えないほど、そこには安らぎの空気が広がっていった。
使い魔たちも近くに降り立ち、長い飛行の疲れを癒すように翼や尾をゆっくりと揺らしている。シルヴァナもまた、野営の準備を手伝っていた。
そのとき、若いエルフがようやく落ち着きを取り戻し、シルヴァナに気づいた。戦いが終わった今、彼の視線は自然とその姿に向かう。凛とした立ち姿と静かな微笑みに、心臓がわずかに高鳴った。
「こんにちは……」と彼は少し照れながら言った。「ちゃんと自己紹介する暇もなかったね」
「こんにちは」とシルヴァナは答えた。「私はリリエル。あなたは?」
「俺はシルヴァナ」とアンドレイは落ち着いて名乗り、微笑んだ。
その瞬間、周囲のエルフたちが一斉に息を呑んだ。
「まさか……あなたが、そのシルヴァナなのか?」
一人のエルフが驚きと緊張の混ざった声で言う。
「そうよ」とシルヴァナは静かに頷いた。
リリエルは言葉を探しながら続けた。
「あなたは……ずっと一人で、この世界の過酷さの中を生きてきたの?」
「そうね」とシルヴァナは短く答えた。
するとリリエルは一歩近づき、優しく言った。
「一人じゃない。私たちがいる。これからは一緒だ」
別のエルフも頷く。
「そうだ。今までよく耐えてきた。でも、もう全部を一人で抱える必要はない」
年長のエルフも静かに言った。
「強いのは分かる。しかし、強い者ほど支えが必要になることもある」
リリエルは続けた。
「あなたは休むべきだよ。助けを受けてもいいんだ」
「……ありがとう」
シルヴァナは小さく笑った。
「そんなふうに言ってくれて。正直、どう返せばいいか分からないわ」
その様子を見ながら、アンドレイは内心で思った。
(いい連中だな……俺が本当に一人で150年生きてきたと思ってるんだよな。ちょっと申し訳なくなるレベルだ)
シルヴァナはその気持ちを感じ取るように、静かに微笑んだ。エルフたちもまた、その言葉の裏にある重さを受け止めていた。
翌朝、太陽が岩山の向こうからゆっくりと昇り、野営地を柔らかな光で照らした。
若いエルフは緊張した様子でシルヴァナのもとへ歩み寄る。
「昨日はありがとう。あの戦い……本当にすごかった」
「ただの通りすがりよ」とシルヴァナは淡々と答えた。
彼は少しだけ頬を赤らめながら続けた。
「その……どこか拠点とかあるの?また会えたり……連絡とかできたら嬉しいんだけど」
その瞬間、アンドレイは内心で察した。
(あ、これ面倒なやつだ)
シルヴァナは一拍置き、少し顔を赤らめながらはっきりと言った。
「ごめんなさい。私は男性が苦手なの」
空気が一瞬止まった。
若いエルフは固まったまま言葉を失い、周囲も微妙な沈黙に包まれる。
焚き火のはぜる音だけが、静かに夜明けの余韻を揺らしていた。
アンドレイは心の中で小さくため息をついた。
(まあ……こうなるよな)




