第12章
第12章
勇者は巨大なドラゴンを探すため、山々の上空を飛び回っていた。探索は簡単ではなかった。岩山はどれも似通っており、雲や気流が視界を乱し、方向を見失いやすかった。
二時間ほど経った頃、彼はひときわ目立つ巨大な峰を見つけた。その山はおそらく、地元では「滅びの峰」と呼ばれているのだろう。
そこに巨大なドラゴンの巣があった。
接近すると、アンドレイは弓を単なる武器ではなく、魔力の媒体として使用した。矢には特別な魔法が込められている。放たれた瞬間、弓のエネルギーが光の糸となり、標的に絡みついて動きを鈍らせ、空中で拘束する。
矢は正確に命中し、魔力の流れがドラゴンの翼を縛り、速度を落とさせた。翼や肩に当たるたび、巨体はバランスを崩していく。
ドラゴンは咆哮し、激しく身をよじったが、アンドレイは冷静に魔法を操り、その動きを封じていく。まるで魔法の糸を操る指揮者のようだった。しかし、これほどの精度と力をもってしても、ドラゴンを従わせることはできなかった。
アンドレイは集中し、アバターを切り替えた。赤髪の魔女フレイの姿へと変化する。
飛行魔法を使い、彼は使い魔から軽やかに飛び降り、そのまま空中に浮かんだ。風と魔力が体を包み込む感覚がはっきりと伝わってくる。
ドラゴンは脅威を察し、翼で風を巻き起こして攻撃してきたが、彼は気流の隙間を滑るように回避する。
すぐに反撃へと転じた。彼の手から放たれるのは、稲妻のように輝く魔法と炎の奔流。それらはドラゴンに絡みつき、後退を余儀なくさせる。
ドラゴンは炎を吐き、尾を振り回して抵抗したが、アンドレイの動きはあまりにも速かった。
彼は氷と風の魔法を組み合わせる。鋭い氷の槍が生成され、ドラゴンの翼を貫いた。
咆哮とともにドラゴンは岩場へと墜落し、岩が宙に舞い上がり、衝撃で巻き上がった砂塵が周囲を包み込んだ。
スキル「鑑定」を使い、彼はドラゴンのレベルが87であることを確認した。すでに命は尽きていたが、価値ある戦利品が残されていた。
彼は次の素材を回収した。
氷の牙 鋭く頑丈で、魔法武器や護符の素材となる
ドラゴンの鱗 光沢を帯び、ほぼ貫通不可能。防具や盾に最適
ドラゴンの心臓 強大な魔力を宿し、強力な魔法や薬の材料になる
これらの戦利品は新たな強力なアーティファクトの作成を可能にし、彼自身や仲間の力を大きく高めるだろう。
そのとき、アンドレイの背筋に鋭い寒気が走った。
彼はすぐに炎の魔法障壁を展開する。温もりが体を包み込み、震えは消えた。
「まさか……俺の使い魔、風の支配者は寒さからも守ってくれていたのか」
彼は軽く笑いながら、周囲の氷の流れが空中で砕け散る様子を見つめた。
インベントリを確認した彼は、不都合な事実に気づく。防寒装備が一つもなかった。
「くそ……」
小さく呟き、首を振る。ゲームには寒さの概念がなく、そのための装備も存在しなかったのだ。
彼は拳を握りしめ、苦笑しながらも理解していた。魔法がある限り、この寒さは問題ではない。
アンドレイはドラゴン召喚のルーンを取り出し、呪文を唱える。空気が震え、周囲に魔力が広がった。
次の瞬間、雲の中から現れたのは古代の氷竜だった。
氷のように輝く鱗と、長い年月を感じさせる瞳が、まっすぐ彼を見据える。
「これからはこの山を守れ」
アンドレイは落ち着いた声で言った。
「ここがお前の仮の住処だ。北の山脈を調査し、見つけたことはすべて報告しろ」
ドラゴンはわずかに首を傾げ、低く唸るように応じる。
「人間のところへ降りるな。俺の許可なしに攻撃もするな」
彼はわずかに笑みを浮かべた。
「守らなければどうなるかは分かっているな」
アンドレイは空中に浮かびながら周囲を見渡した。
氷竜は山々の上空へと舞い上がり、雪と風の中を悠然と飛んでいく。
この北の地には知性ある種族は存在せず、海には魔物がいるため、船も近づくことができない。
アンドレイはテレパシーで語りかける。
「ここに残れ。この地を調査し、すべて報告しろ。お前を信じていいな」
重く響く声が意識の中で応えた。
「お前は我に目的を与えた。我はそれを受け入れる。この山は我が住処。我はお前の目となり耳となろう、主よ」
アンドレイは微笑む。
「ありがとう。そして、ここに残すことを許してくれ。でも分かっている。ここはお前にとって最適な場所だ。一緒に多くのことを成し遂げよう」
「了解した、主よ。我はここに留まり、お前の帰りを待つ」
こうして古代の氷竜は、この地の守護者となった。
それを見届けながら、アンドレイは確信する。北の山々はすでに守られている。そして、離れていても、その繋がりは決して途切れない。




