第6章 皇帝の軍勢
第6章 皇帝の軍勢
皇帝がエルフの村から飛び去った後、村には本当の混乱が広がった。
エルフたちは激しく議論していた。
ある者は「今すぐ逃げるべきだ」と叫び、命を最優先にしていた。
また別の者は「皇帝に従えば生き残れる」と主張し、その場に留まるべきだと考えていた。
その中でアンドレイはアリスのもとへ走る。
動きは速く、無駄がない。
「アリス」
彼は冷静だが、はっきりとした声で言った。
「ここからすぐに離れる必要がある」
「でも……お父さんたちが!」
アリスは叫んだ。目には不安が溢れている。
「助けなきゃ……!」
「あなたはそんなに強いのに、どうして倒さなかったの?」
彼女は混乱したまま問いかける。
アンドレイは少し身をかがめ、落ち着いたまま答えた。
「アリス……あいつは俺より遥かに強い」
「逃げるしかない。今は生き残ることが最優先だ」
静かだが揺るがない声だった。
「あとで必ず救う」
彼は続ける。
「君を失うわけにはいかない。……二人目の妻だからな」
その言葉は軽くなかった。
冷静でありながら、絶対的な決意が含まれていた。
アリスは固まる。
その言葉の重さを理解した。
それは約束であり、否定できない現実だった。
アンドレイは立ち上がり、周囲のエルフたちへ向けて声を上げる。
「全員聞け!」
村に響く強い声。
「ここに残れば奴の支配下に入るか、奴隷になるかだ。結果は分からない」
エルフたちは動きを止める。
「戦う道もある!」
彼は続ける。
「俺はすでに世界中で軍を集めている。
ミルタナ王国に集結し、あの自称皇帝を倒す!」
沈黙。
しかし、その沈黙の中に変化があった。
多くのエルフの目に、決意の光が宿る。
アンドレイはそれを見て理解する。
(ほとんどが動いたな)
逃げるしかないと悟ったのだ。
エルフたちは南へ向かい始める。
新たな軍を作るため、安全地帯へと移動する決断だった。
その時――
地面が揺れた。
小さな地震のような振動が森を走る。
木々が震え、空気が重くなる。
念話が即座に繋がる。
「主様!」
フロストの声だった。
「西の山でゴーレムです! 前と同じ、約2キロ級が8体!
アイサド王国へ向かっています!」
アンドレイは即座に命じる。
「戦うな」
彼はエルフたちを見ながら続ける。
「お前の役目は目だ。北の山を監視し続けろ」
「頼りにしている、フロスト」
フロストは短く了解し、山の影へと消えた。
アンドレイは内心で考える。
(この“偽皇帝”は何をするつもりだ?)
(破壊か? 恐怖による支配か?)
(それとも、もっと別の何かか……)
その時だった。
闇の裂け目があった場所に、異変が起きる。
青い“壁”のような空間が開いた。
ポータル。
冷たい光を放ち、まるで生きているかのように脈動している。
そこから――
影の軍勢が溢れ出した。
数十万。
いや、数百万にも見える。
形を持たない影の兵士たち。
だがその一つ一つが、明確な殺意と圧力を持っていた。
まるで闇そのものが軍になったかのようだった。
さらに、その中に異質な存在が現れる。
ドラゴンに乗った騎士たち。
数は多くない。
しかし明らかに“指揮官級”の存在だった。
黒い鎧に身を包み、顔は見えない。
ドラゴンは空を震わせるほどの威圧を放ち、ただ存在するだけで破壊の予感を漂わせていた。
戦いは、まだ始まっていなかった。
だが世界はすでに――戦争の形をしていた。




