第22章 ― 石の天蓋の下の宴
第22章 ― 石の天蓋の下の宴
巨大な広間は、山の中心をくり抜くようにして造られていた。
太い石の柱が天井へと伸び、その先は影の中に溶けている。柱の間には重厚な鍛鉄の灯りが吊るされ、あたり一面を温かな金色の光で照らしていた。
ドワーフたちは長いテーブルに腰を下ろし、ビール樽や焼いた肉、素朴ながらも食欲をそそる料理を前にしていた。
ざわめく声、ジョッキのぶつかる音、豪快な笑い声が広間を満たしている。
「おい、もっと注げ!」
ひとりの髭面のドワーフが、ジョッキをテーブルに叩きつけながら叫んだ。
「もう十分だろ!」
別のドワーフが言い返す。
「前はツルハシをスープに突っ込もうとしてただろ!」
「熱かったんだよ!焼き入れの具合を確かめてたんだ!」
テーブルに笑いが広がった。
白い長い髭をたくわえた年長のドワーフが立ち上がり、テーブルに手をついて声を張る。
「静かにしろ!面白い話をしてやる!」
ざわめきは少し収まったが、笑みは消えない。
「あるドワーフがな、魔法使いのところへ行ったんだ……」
誰かがすでに吹き出した。
「もう嫌な予感しかしねぇ!」
「黙って聞け!」
彼は手を振って続ける。
「その魔法使いが言ったんだ。“どんな願いでも叶えてやる”ってな!」
「で、何を頼んだんだ?」
あちこちから声が飛ぶ。
老人はにやりと笑った。
「無限に湧き出るビール樽さ!」
「そりゃ賢い!」と歓声が上がる。
「魔法使いは願いを叶えた……」
彼はわざと間を置いた。
ドワーフたちは身を乗り出す。
「……だが、その樽には底がなかった」
一瞬、沈黙が落ちる。
そして次の瞬間――広間は爆笑に包まれた。
「それは悲劇だ!」
「最悪の呪いだ!」
「敵にすら願わねぇ!」
笑いと酒と話に満ちた空気の中で、しかし彼らは時折、ちらりと視線を交わしていた。
そこにいる存在を、忘れないように。
セレスティナ。
彼女はドワーフたちと同じテーブルに座り、笑い、杯を掲げていた。
「いやはや……」
ひとりのドワーフが一口飲んで言う。
「本当に一緒に飲んでるんだな……」
「そうだな……」
別の者が低く答える。
「だが、誰も忘れちゃいねぇ。本当は何者かってことをな」
セレスティナは杯を掲げた。
「あなたたちの技術に――乾杯」
ドワーフたちは一斉に応え、ジョッキを打ち鳴らした。
ひとりのドワーフが身を乗り出す。
「本当ですか?アイサド王国に巨大な隕石を呼び落としたって話は」
「ええ……」
彼女は静かに答えた。
「王を少し脅す必要があっただけ。でも、もし退かなければ……軍を消すしかなかったでしょうね」
ドワーフたちはざわめいた。
「戦争にならなくてよかった……」
誰かが呟く。
「ありがとうございますよ」
狡猾そうなドワーフが笑う。
「おかげで鉱山の半分は俺たちのものだ。働かずに済んだ連中も多い!」
「そうね……」
セレスティナは小さく笑った。
「でも、ルールは忘れないで」
彼女は手を上げ、場の注意を引く。
「私の都市には新しい職人が必要よ。働きたい者は、この国にいる悪魔の守衛に登録してちょうだい」
ドワーフたちは驚き、互いに顔を見合わせた。すでに興味を示す者もいる。
「守衛はもう国中に配置してあるわ」
セレスティナは続けた。
「あなたたちは悪魔たちに技術を教えることになる。優秀な者は管理職にも就けるわ」
広間は再び活気づいた。期待に満ちたささやきが広がる。
「それと――」
彼女は続けた。
「中型以上の魔石はすべて必要よ。この国からの持ち出しは禁止」
一拍置き、理解を待つ。
「適正な価格で買い取るわ。特に大きなものには特別な報酬を出す。すべて私の城へ送って」
「それ以外の資源は……」
彼女は微笑む。
「好きにしていいわ」
条件を聞き終えたドワーフたちは互いに頷いた。
悪くない取引だった。
セレスティナは立ち上がる。マントがわずかな風に揺れた。
「これで話は終わりよ」
杯を軽く掲げる。
「働きなさい。採掘し、教えなさい。ルールは忘れずに」
ドワーフたちが何か言おうとした瞬間――
彼女の姿はすでに宙へと浮かび上がっていた。
「なんて力だ……」
ひとりが呟く。
「人間じゃ、あんな真似はできねぇ……」
「まったくだ……」
別の者が頷く。
「これで分かったな。誰がこの地を治めてるのか」




