第14章 過去の影
第14章 過去の影
アンドレイは崩壊した山々を見下ろしながら、岩場の縁に重く寄りかかった。
彼は心の中で思った――「これで、この山に近づこうとする者はいなくなるだろう」
しかし、ゴーレムが通常の存在ではなかったという事実が、彼の胸から離れなかった。
その出自を突き止める必要がある、と彼は判断した。
ゴーレムがいた場所へ戻ると、地面には散乱したミスリルの破片が残されていた。巨大な希少金属の塊がそこら中に転がっている。
— これを集めろ。— アンドレイはドラゴンに言った。— 調査が必要だ。
彼自身は「過去読取」の魔法を発動した。時間の流れが逆転するように感じられ、
年月が巻き戻りながら、巨人が目覚める前の出来事が映し出されていく。
そこに、ドワーフの都市の歴史が現れた。
鉱夫たちは反乱を起こしていた。ミスリル採掘の危険が日に日に増していく坑道へ、誰も入りたがらなかったのだ。
崩落は頻発し、山そのものが生きているかのように不安定になっていた。
それでも監視兵たちは容赦なく労働を強制し、恐怖を訴える者たちを無視した。
ドワーフたちは従い続けたが、大地の揺れは次第に強くなっていった。
そしてその瞬間――ゴーレムが目覚めた。山そのものが生き物となったのだ。
巨大な岩塊が都市へと降り注ぎ、建物の壁は崩れ、屋根は潰れ、衝撃波がすべてを薙ぎ払っていく。
その地震は壊滅的だった。1万体のドワーフが瞬時に命を落とし、都市はほぼ完全に廃墟となった。
わずかな生存者だけが、崩壊した鉱山都市から逃げ延びた。
アンドレイはその光景を冷静に観察していた。そこには単なる破壊ではなく、自分が相対した“力の本質”があった。
彼は歯を食いしばりながら、さらに時間を巻き戻そうとした。
ゴーレムを呼び出した存在を突き止めるために。
過去の記憶が激しく流れ続ける。だが深く潜るほど、反動も強くなっていった。
そして限界に達する。魔力はほぼ枯渇し、身体から力が抜け、意識が霞み始めた。
これ以上の探索は不可能だった。
彼は意識を失った。
しばらくして目を覚ましたアンドレイは、荒い呼吸を繰り返しながら肩を震わせていた。
— 黒幕は……まだ見つからないか。— 彼は歯の間から絞り出すように呟いた。— なら、掘るしかない。
彼とドラゴンは、崩壊の跡から散らばったミスリルを慎重に回収した。その量は想像以上だった。
アンドレイは強い決意を込めて命じる。
— 北の山々を飛べ。すべての裂け目、すべての峰を調べろ。ゴーレムのようなものが他にないか確認するんだ。
ドラゴンは静かに頷いた。
— 承知しました、主よ。
そのまま彼は氷の空へと舞い上がり、闇夜の彼方へ消えていく。その巨大な翼が夜空を裂いた。
— そして今は……拠点へ戻り、準備だ。すべてはこれからだ。
休息を取り、完全に魔力を回復させたアンドレイは「闇の裂け目」へ向かった。
今回は最高級のマナ倍増ポーションを携えている。失敗と魔力切れは許されないからだ。
彼はそれを飲み干し、体の隅々まで力と集中力が増幅されていくのを感じた。
そして過去の調査を開始する。時間の流れが開き、古代の記憶が彼の前に広がった。
約2000年前、この場所に突然“黒い壁”のような裂け目が現れた。それは北から南へと大陸を断ち切っていた。
それはただの裂け目ではない。ポータルだった。暗く、危険な異界への扉。
そこから影の軍勢が溢れ出し、剣士、槍兵、そしてペガサスに乗った戦士たちが終わりなく現れた。
彼らはすべてを容赦なく侵略し、周辺の土地を支配していった。
アンドレイは拳を握りしめ、時間と魔力の奔流をかき分けながら、その“呼び出した者”を探した。
数千年の記憶を一つずつ解析していく。
しかし深く潜れば潜るほど、結論は明確になっていった。
――この現象に該当する存在は見当たらない。
どの魔法使いも、どの戦士も、どの種族も、この規模の力には到達していなかった。




