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「おや?皆様随分と大人しくなりましたね。結構な事です」
植神エリアスの話をしてから完全に動けなくなってしまったポフルを含めた店主達を見て、センライはポフルの拘束を外して微笑んでいる。
「ですが、既にお伝えした通りに皆様と私の間での売買は終了です。それと、こちらの方々は我らの同胞、つまりは植神エリアス様の庇護下に入る方々です。全てを説明する事はしませんが、理解できましたね?」
シズルやトリシアは除くのだが、移住組に手を出す事は決して許さないと暗に告げているセンライ。
その不気味な気配を察知したのか、一人、また一人とこの場を逃げるように去って行くピュアリーフを購入するために集まっていた店主達。
「残るはあなただけですね。ご理解いただけましたね?」
唯一残っているのは、自らのピュアリーフをヘルナンド公爵に差し出す必要が出てしまっているポフル。
「り、理解した。理解したが、一枚!一枚で良いから、費用は払う。何とか一枚売ってくれ!頼む!」
一枚手に入りさえすれば、これ以降入手が出来なくなった事に関しては植神エリアスのせいにできるので、ポフルも必死だ。
「……残念ですがポフル様。御覧の通り店じまいをしてしまいましたし、そもそも貴方の口から活動停止との言葉を頂いておりますので、無理ですね。では私も忙しいのでこれで失礼します」
ポフルの必死の懇願もむなしく、センライはあっさりとその申し出を断りトリシア達を先導する。
「兄ちゃん、アレはポフルが悪い。あの対応はきっちりと線引きができている素晴らしい対応だ。だから、そんな悲しそうな顔をするな」
「そ、そうですよね。何でも可哀そうに見えるのは間違いですね」
少しだけポフルを可哀そうだと思ってしまったシズルの表情を見て、トリシアではなくアドビが行商人に扮していたセンライの態度が正しいと教えている。
確かにここで甘い顔をすればつけあがるのが目に見えているのだが、未だに甘い考えが抜けきらないシズルだ。
「フフ、静流様。お気になさらずに」
優しくシズルの腕に自らの腕を絡めているトリシアだが、その姿を見て優しい微笑を浮かべるアドビと五人の子供、そして明らかに驚愕しているセンライの表情が対照的だ。
全員が門を出て街道を歩いている中で、センライはシズルへの対応に少々困っていた。
今回の救出とも言える行動をとるように……とのお願いが書かれた手紙が蔦によって遥か上方から降りてきたのだが、その中にはトリシアの容姿と共に天空神である事も記載されていた。
自らが崇める植神エリアスと同格の神である天空神トリシア。
その高貴な存在が、どう見ても若い男にベタ惚れと言って間違いない行動をとり続けているのだから……その相手であるシズルに対しても敬意を持って接するのは当然ではあるが、どこまでの対応をするべきかで結論が出なかったのだ。
シズルとトリシアは二人の世界に入っているし、子供五人も楽しそうにしており、その姿を見ながら微笑みつつも今後の料理について考えているアドビ。
唯一周囲をしっかりと警戒していたシバだけは、五人の子供と共に行動している以上は確実に追跡できるとの思惑で行動しているポフルの手の者がいる事に気が付いている。
やがて街道を外れるセンライだが、彼が進む道は何故か瞬時に街道同様に歩きやすく変化し、後に続いている子供やシバが通過すると再び歩き辛く先も見えない藪に覆われる。
植神エリアスの力の一つで追跡者が追ってこられないようにする処置であり、自動的に行われているので、シバは追跡者の対応をしなくて済んだと喜ぶ。
勿論同格のトリシアには意味がないものではあるが、そのまま進む事数十分。
「つきました」
「「「「「わぁ~!!」」」」」
一気に広がる大草原の中央に、巨木と言って良いのかわからない程の大きな木が聳え立っている。
「あの木が、我々が住んでいる家、そして皆さんの新たな家になります。後程少ないですが住民を紹介させていただきます。そしてその遥か上方、雲に覆われて見えませんが、遥か上に我らを守護して頂いている植神エリアス様がいらっしゃるのです。前回の顕現は二月ほど前ですので、慣例的に一年以上はお待ちいただく事になろうかと思い……」
「トリシアちゃん~。その子達かな~?」
「あらエリアス?今日はしっかりと起きて……モガモガ……」
住民の前だからなのか、語尾は伸びているがしっかりとした態度で現れた植神エリアスではあるが、本性を知っているトリシアが口を滑らせかかっているので必死で口に手を当てて慌てている。
通常であればこれほど早く顕現する事は無いので、センライは話を途中でやめて慌てて住居に走って行き、住民を集めているようだ。
「こほん。私が~、加護を与えます~。貴方……えっと~……アドビ君。君は~料理が得意らしいじゃない~?毎日楽しみにしているわ~。宜しくね~。じゃあ私は用があるから~、またね~!」
せっかく急いで住民を集めているセンライを気にする事なく、言いたい事だけ言うと消えて行く植神エリアス。
その姿を遠目で見ながら必死で走ってくる一行は、結局間に合わなかった。




