(6)エリアスとの交渉
「エリアス、エリアス!起きてください!エリアス!」
スースー幸せそうな顔をしながら寝息を立てている植神エリアスを必死に起こそうとしているトリシア。
手始めに軽く揺すりながら声をかけているのだが、一向に目を覚ます気配がない。
トリシアは、一瞬いつの間にか魔神ゴアによって何かしらの制約をかけられたのかと思ってしまったのだが、良く思い起こせば元から常に睡眠を欲しており、動きも非常に緩慢であった事を思い出し、思いがけない難敵が現れてしまったと可愛らしい眉を寄せている。
このままでは永遠に起きないのではないかと危惧したトリシアは、エリアスの上半身を起こして両肩を揺らすのだが……
頭が無駄に激しく揺れているだけで、表情にすら一切の変化がなく穏やかに寝息を立て続けているエリアス。
「……やはり植神エリアス。植物を司っているだけあって強敵ですね。どうしましょうか」
そこで思いついたのが水だ。
植物はこの世界でも基本的には水と光と大気中の空気の一部を欲する。
地球とは異なって二酸化炭素や酸素と言う名称にはならないし、光や水の種類もまちまちではあるのだが、トリシアには水に関して秘策があった。
神国アクアで、魔神ゴアの制約から解放する事に成功した水神アクアによって作成された、高純度の水を持っているのだ。
早速収納魔法から水の入っている容器を取り出して、下にベッドがあろうが関係ないとばかりにエリアスにザバッと浴びせる。
「ん~、美味しいお水~。もっとちょうだ~いぃ」
就寝中に頭から水をぶっ掛けられて更に欲するような発言ではあるのだが、これが植神エリアスだ。
話している傍から再び眠りそうになっている事から、このチャンスを逃さんとばかりに再び上半身を強引に起こしてさっきよりも激しくガクガク揺するトリシア。
「ちょっと、エリアス!寝ないで下さい。私の話を聞いて下されば今のお水をもっと差し上げます!」
トリシアの声に反応したのではなく、もっと水がもらえると言う所に反応したエリアスは、上半身を多少フラフラさせつつも緩やかに目を開ける。
「あれ~、トリシアちゃん。かな~?久しぶり~」
もう脱力しそうな程ノンビリしているエリアス。
必死で目を開けているのだが、ずぶ濡れであるにもかかわらず何時再び眠り始めてもおかしくない状況だ。
実はこのエリアスの生態を知っていた魔神ゴアは、エリアスに制約をかけても変わらず眠りこけている事が容易に判断できており、仮にエリアスを牢獄に入れようともひたすら眠るような存在である事から、その力を得る事も抑える事も必要ないと判断して攻撃対象に含めていなかった。
そのような理由で魔神ゴアの魔の手から逃れる事が出来たとは知らないエリアスは、目の前にトリシアが現れても間延びした反応をしているままだ。
「エリアス、良く聞いて下さい。って、早速眠らないで!!これ、これが報酬ですよ?」
この短い時間で再び眠りそうになっているエリアスを見て、報酬で意識を取り戻させる他ないと判断したトリシアは、再び水神アクア作成の水の入った容器を目の前でヒラヒラさせる。
「あ~…お水……だ~」
起きているのかどうか良くわからないが、これ以上改善する手立てを持たないトリシアは話を進める。
「エリアス、良く聞いて下さい。魔神ゴアの話をしたい所ですが、貴方がそこまで持ちそうにないので最も重要な話をします。率直に言うと、貴方が加護を与えているこの場所に、六人受け入れてほしいのです。五人は子供、一人は男性の成人です」
「良いよ~」
「……きちんと内容を理解しましたか?」
「大丈夫~」
あまりにも軽く、あまりにも早い回答であったために疑ってしまうトリシアだが、目の前の水の容器に視線がきちんと固定されている事から意識はあると判断した。
「もう一度だけ……ここからほど近い人族のヘルナンド公爵と言う者が治めている町に住む子供五人、その五人を助けている成人男性一人を保護してください。全員がヘルナンドに目をつけられているようなので、保護の仕方はお任せします」
しかしやはり不安なのでもう一度確認してしまったのだが、きっちり理解してくれたような回答を得る事が出来た。
「……わかったよ~。その町~、時々、ピュアリーフを~、持ち込んでいるよ~」
「そうみたいですね。そのおかげであなたの存在に気が付く事が出来ましたから。ではどうすれば良いですか?ここに連れてきますか?それとも町に滞在させたままの方が良いですか?」
「次の~ピュアリーフ納品……一緒に帰ってくる。明日行く~」
徐々に覚醒しているのか、間延びする頻度が若干少なくなっているエリアス。
「わかりました。ではお待ちしていますね。ありがとうございます」
お礼と共に水を渡すと、ごくごく飲んで濡れたベッドに横たわってすぐに寝息を立ててしまったエリアスを不安そうに見ながらも、シズルの元に戻るトリシアだ。




