(3)シズルの決断とトリシアの行動
僕は、この町の領主がどのような人かを確認するために席を立って、店のご主人に話を聞いたのだけれど……
なんと僕達はまだミツバ王国を出ておらず、この町は四大公爵家の一つであるヘルナンド公爵家の領地なんだって。しかも領主の館もあるみたい……うへぇ~……
ヘルナンドと言えば、佐島 芳江……ヨシエとしてこの世界に存在している、僕と同時に召喚された召喚者四人の貴族の内の一人の家だね。
道理で……あの汚らしい言葉使いの女が存在するような家であれば、こうなるのも仕方がないかな……って、まぁ、公爵家にはトリシアさんの力で強制的に受け入れさせていたのだからココまで言い切ってしまうのも問題があるのかもしれないけれど、そう思ってしまう程に酷いよね。
だとしたら猶更この町の環境を変えるのも難しいし……と思いつつも更にこの町の事情を聞けば、あの五人の親は何の罪だか全くわからない状態のままでヘルナンド家によって突然捕縛され、何時何処でと言う詳細はわからないけれど、既に死罪になった事だけは確実なんだって。
なんだよそれ!
しかも!第三者から見れば捕縛の理由はどう考えても不当で、ヘルナンド公爵が町を散策している時に道を譲るのが遅かったとか、遜るのが遅かったとか、更には水を提供するのが遅かったと言う理由で連れて行かれたみたい。
連れ去られた当人達はまさかそんな事でと思えるはずもないので、罪状が不明なまま連れ去られたと思ったのは仕方がないよね。
でも、ちょっと許せないな。
今までは極力干渉しないように気を付けていたけれど、これだけ惨いと膿を出し切らないとダメかもしれないよね。
ううん……かもしれないじゃないよね。絶対にダメだ。
このまま放置すれば第二第三、気が付かないだけでもう多数の犠牲が出ているかもしれない!
事情を聞き終えた僕は、なるべく表情に変化が現れて子供達が怯えないように注意しながら席に戻ってみたけれど、トリシアさんには全てお見通しのようで、立ち上がって僕をそっと抱きしめてくれたよ。
子供達は少しだけ優しい微笑を僕達に向けながら、食事を続けているよ。
大量の食事をくれた恩人と思っているのか、この年齢で冷やかそうともせずに……これだけでも涙が出そうだよ。
「静流様、お話は聞かせていただきました。私に良い案があるのですが……その案が使えるのかどうか、少々確認する必要があります。数時間だけお時間を頂けますでしょうか?」
「それはもちろん大丈夫ですけれど、一人で大丈夫なのですか?護衛にシバを連れて……」
「いいえ、大丈夫です。寧ろ静流様の安全の為にシバはそのままでお願いします。それに、私の方は危ない場所に行くわけではありませんから。昔の知人の居場所を確認して少々会話をしてくるだけです」
トリシアさんの昔の知人……って、人ではないですよね?
どう見ても神様のどなたか。
僕ではよくわからないし、良い案がある訳ではないのでここは頼らせて頂く方が良いよね。
「わかりました。でも、もし危険がせまったら絶対に退避してくださいよ?」
「もちろんです、静流様。私には静流様が全てですから、この生活を手放すような事は絶対にしません!」
抱きしめながら耳元でボソボソ話していたので、能力の高いシバを除いで誰にも聞こえていないはず。
「では皆様、私は所用がありますので少しだけ席を外させていただきますね」
こうしてトリシアさんは店を出て行ったよ。
僕は少し不安になったけれど、目の前の子供達の方がもっと不安な思いをしてきたのだから、ここは我慢!
「とりあえず、お食事代は先にお支払いしておきますね」
一応収納袋に入っていると見せかけて、普通の袋の中に手を入れて未だ容量の少ない収納魔法からお金を出すふりをして、店主さんに渡しておくよ。
「おいおい、これはちょっと多すぎ……」
やっぱり黙っては受け取ってもらえませんね。
「いいえ、丁度です」
僕は敢えて強めに言葉を発すると、店主さんは肩をすくめながらも受け取ってくれたよ。
「実は一つお願いがあります。明日の朝にまた二人でここに来ますので、彼等の分の朝食代、それと可能であれば宿泊代を受け取って頂けませんでしょうか?」
おそらくこの子達の状態のままでは僕達が泊まる宿に泊めてあげる事は出来ないはずなので、押し付けるようになってしまうけれどこの店主に縋る事にしたよ。
半ば強引に再びお金を出すとその金額に驚いたような表情を見せたけれど、少しだけ表情を崩して受け入れてくれたよ。
ありがとうございます。
「お前等、雑魚寝になるが入って良いぞ。ただし、靴は脱いで、しっかりと泥を落とせよ。一応ここは食堂だ。衛生面には気をつける必要があるからな」
そう言えば、ここの食事はとっても美味しかったけれど、どうしてお客様がいないのかな?
そんな事を考えつつも、僕はトリシアさんの帰りをシバと一緒に宿に戻って待つ事にしたよ。
でも、トリシアさんが必要な時間は数時間と言っていたから時間が有り余っているので、事前に町の入り口に向かって御者さんをシバの力で探してもらって、明日の朝の便には乗らない事を事前に伝えておいたよ。
迷惑をかけるといけないからね。
でも、この世界に来てから初めての独りぼっち……ううん、シバがいてくれるから大丈夫だよ。
ごめんね、シバ!
でもとりあえずあの五人はゆっくり眠れるだろうし、少しだけ安心かな。
この事情を知ってから改めて町を観察したけれど、あの五人のような人はいなかったのが唯一の救いかな。
そうなると、とりあえずあの五人を助ける事だけに力を注げばよいのかもしれないね。
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