(11)ソルバルト
「は~、本当に美味しかったです。何と言いますか、領主様の件もあるので美食家の町なのでしょうか?」
トリシアさんがこのように言うのも納得できるほどの美味しさでした。
シバもお代わりをして満足したのか、今は僕に抱かれて眠っているよ。
僕達の為に普段は一生懸命動いてくれているからね、ありがとう。
僕は身体強化があるから問題なく抱けるけれど、最近特に成長してきたから普通の人だと長く抱き続けるのは厳しくなっている位の大きさに成長しているよ。
秋田犬位の大きさと言えば良いのかな?
トリシアさんによればこれがシバの成体の大きさだと言うから、これならば僕が抱けるギリギリなので抱いたまま暫く散歩をしたよ。
「次は、市が有名だと言っていましたね。ですが、シバが疲れているようなので一旦宿に行きませんか?」
「フフ、静流様の優しさも素敵です。そうしましょう!シバも本当に幸せですね。こんなに素敵な主人に出会えたのですから」
ちょっと恥ずかしくなるけれど、二人で笑顔のままギルドの受付の人から聞いていた宿に向かう事にしたよ。
「ここですか。結構大きいですね。やっぱりこの町は相当栄えているみたいですから、観光も期待が出来そうです」
トリシアさんが宿を見てそう呟いた時、シバが何かに反応して僕の腕から降りると、ある一点を見ていたよ。
この反応はどう見ても僕達に対する悪意に反応したはずなので、またかと言う思いで僕達もその方向を見ると、その先にはギルドでも見たような気がした男が二人。
「よう、兄ちゃん。姉ちゃんもだが、そのレベルであの食堂の飯を腹いっぱい食って、ここに泊まるなんて相当儲かっているんだな」
「ギルドで依頼を受けるのかと思いきや、観光名所や美味い食事を聞く白色のカードなんて聞いた事がないからね。で、俺達は思ったのさ。きっと君達はどこかの御曹司か何かだろう?君達の為に命を懸けて働いている僕達にも少々感謝の意を示しても良いと思わないかい?」
やっぱり悪意の塊でした。
せっかく良い気持ちで過ごしていたのに、台無しですね。
「僕達は期待しているほどの立場の者ではないですよ。コツコツ依頼をこなして貯めたお金で新婚旅行をしているだけです」
一応真実を告げてみたけれど、これで諦めてくれれば苦労はないですよね?
「そんな事を信じる奴がとこにいる?」
「無知な時点で御曹司である事が明らかになっているよ。そもそもあの食堂、白色のカードであれば一年以上は依頼を受けないと一食すら食べられないのに、それを何食も。理解できているかい?」
「そんなことを言われても困りますよ。それに、あなた方には関係のない事ですよね?」
だんだんムカムカしてきたけれど、どうしようかな?
「シズルさん、トリシアさん、ようこそお越しくださいました!」
突然宿の中から出てきたソルバルトさんは、僕達に笑顔で不思議な事を言っているね。
でも、僕達に絡んできた冒険者の二人はソルバルトさんの姿を見て少し怯えているみたい。
あれ?この人って行商人のはずなのに、なんで怯えられているのかな?と思っている僕達を置いてきぼりにして、二人の冒険者に厳しい視線を向けるソルバルトさん。
「貴方達は私が誰だかわかっていますね?その上で一度だけ忠告しましょう。このお二人は私の大切な客人です。わかりましたね?」
「「はい。申し訳ありませんでした」」
ソルバルトさんのこの一言だけで、深い謝罪と共に一気に走って逃げ去って行く二人。
あれ?本当にソルバルトさんって何者なのかな?
「静流様。良く考えれば、領主であるコステル伯爵と直接事前連絡無しで会える立場である事を考慮すれば、結構な権力を持っているのかもしれませんね」
確かにトリシアさんの言う通り、落ち着いて考えれば一介の行商人が貴族に直接面会できる可能性は少ない……のかな?
僕には良くわからないけれど、そうなのかもしれないよね。
「驚かせてしまって申し訳ありません。実はあの後急いでコステル伯爵の所にランドフィッシュを納品したのですが、突然の豊漁とも言うべき事態に驚かれて事情を聞かれた為にお二人の功績であると伝えた所、しっかりとおもてなしをするように厳命されまして、部下達に探させていたのです」
それで僕達がこの場所に来ていると報告を受けて待っていた所、余計なトラブルがあったので急遽出てきてくださったと言う事ですよね?わかりました!
「私は若い頃には食に目がないコステル伯爵の使用人をしておりまして、その頃から行商人として領外で活動をしていたのです。思いの他そちらが楽しくなってしまい使用人の立場からは外れましたが、今までの功績と言う事でこの宿の経営もさせて頂いております。ですので、この町にいらっしゃる間の費用は頂かないと言う事で宜しくお願いします」
二日間だけ行動を共にした人だけれど、一度言い出した事は曲げそうにない雰囲気は掴んでいたよ。




