(8)行商人
村に戻ると、入ってすぐの所で人だかりができていたので少しだけ心配になったけれど、良く見れば村の人々に笑顔が溢れているので問題なさそうだね。
「何かあるみたいですね。私達も行ってみましょう、静流様!」
釣り以外の楽しみがあるのかもしれないと言う期待からか、嬉しそうに僕の手を引いて人だかりの方へ向かうトリシアさん。
「お!ランドフィッシュマスターだぞ!」
村の人達が僕とトリシアさんを見て騒ぎ出すのだけれど、その呼び名、何とかなりませんか?
善意で言ってくれているのは理解できますが、言われている方は結構恥ずかしいです。
「今日も大漁だったのか?」
人込みの中から出てきたのはステールさん。
「こちらです」
収納袋に別に保管していた5匹を渡しておくよ。
「今日も最高の状態だな。まいど!」
実は宿泊料金をランドフィッシュで支払う事になったので、唯一の暇つぶしも兼ねて釣りをして宿泊費を払う……と言う事をしているよ。
本当は一匹でも十分と言われているけれど、日に日に上昇している身体能力のせいなのか、手を抜いた状態でも今日の釣果は30匹だったりするよ。
少し乱獲気味で個体数が減らないか心配になったけれど、トリシアさんによれば腐っても魔獣なので勝手に湧いてきているので心配いらないみたい。
安心しました!
「ところでステールさん。この人だかりって何でしょうか?」
「前に説明したかと思うが、物資を届けてくれる行商人が来たもんでな。で、今回俺達はランドフィッシュマスターのおかげで潤沢な資金がある訳だ。行商人の親父もこの味にやられて幾らでも即金で買うと言っていたからな。普段は見るだけで手が出なかった物を買うべく、人々が集まっているのさ」
あっ、だから村の人達は感謝の念を込めてあの不思議な呼び方で僕達を呼んでいるのですねー。
理解しましたよー。
周囲の人達は皆が笑顔で僕達にお礼を伝えてくれるし、行商人の人から何かを購入したのか、手に取って嬉しそうにしているし、僕も凄く嬉しくなったよ。
「トリシアさん、やっぱり笑顔って良いですよね。本当の笑顔って」
思わず日本にいた頃の事を少し思い出してしまったけれど、そこも伝わってしまったのか、何も言わずに優しく僕の手を握ってくれるトリシアさん。
トリシアさんは僕の事を優しく人込みから出してくれて、二人で少し遠目に村民の人達が嬉しそうに買い物をして、行商人の方が笑顔で対応している姿を眺めていたよ。
何も考えずにボーっと見ていたけれど……どうやらお店の方に売る物が無くなったみたいで、今度は村の人達が何かを行商人にお願いしているみたい。
「あれ、なんでしょうね?次に来た時に持ってきてもらいたいもの……のお願いですかね?」
「そうかもしれませんね。行ってみましょうか?静流様」
人がまばらになったので難なく行商人が出していた店の前に着くと、僕の予想は少しだけ当たっていたよ。
次の時に買ってきてもらいたい物をお願いして先払いで対価を渡しているみたい。
先払いなのは、この行商人の人は長くこの村と付き合いがあるので信頼されているからなんだって。
凄く良い関係だよね。羨ましい。
う~ん、僕は少しナーバスになっているのかな?
日本の頃を思い出しすぎかもしれないね。
「じゃあ、これを近くのギルドまで頼む」
あれ?ステールさんが他の人とは違ってギルドに対して何かをお願いしているね。
僕が不思議そうにしているのに気が付いたのか、笑顔で説明してくれたよ。
「おっと、ランドフィッシュマスターには説明しておかないとな。俺達、マスターの道具で結構利益を得られるようになっただろう?だから、お宝の匂いを嗅ぎつけた領主のような連中が来ないとも限らない。その対策として、この村に住んでくれる冒険者を募集したのさ。引退間近、引退直後であれば、こんな村にも住んで良いと言う冒険者は結構いるはずだからな」
流石はステールさん。
今後の事を考えてきちんと行動しているのが凄いよね。
でも、この村にはギルドがないんだね。
僕達の滞在中に地上にいる危険な魔獣の気配は一切なかったから、ギルドは不要と判断されているのかな?
でも、冒険者が永住してくれるのであれば万が一の時にも安心だよね?
「で、実はランドフィッシュマスターにお願いがあってな。ホレ、親父!」
ステールさんは行商人の人に話を促しているよ。
そっか、お願いってこの人からなんだね。




