(2)釣果
トリシアさんと僕が釣ったかなり大きな魚と普通の大きさの魚を食べ終わって、火を消して寛いでいても未だに一匹も釣る事が出来ていない対岸の人達。
糸が切れているわけでもないし餌に食いついていないわけでもないので、何か他の原因があるはずだよね。
シバは座っている僕の足の上で気持ち良さそうに寝ているし、トリシアさんは隣に座って僕に寄り掛かるように体を預けてくれているよ。
「あ~、くっそ~!なんでだよ!!」
とうとう我慢が出来なくなった一人が騒ぎ出してしまった対岸。
何やら集まって色々と話をしているみたいだけれど、そう言えば僕も何か上手く行かない時には日本……田舎に引っ越す前の一時期は、ああやって色々と相談できる人達がいた事を思い出しちゃった。
今思えば、日本でも楽しく過ごせた時があったんだな~なんて思えるほどに余裕があるのは、絶対にトリシアさんとシバのおかげだよね!
「おい、お前!どうやってあんなに簡単にランドフィッシュを釣り上げたんだ?」
っと、びっくりした!
トリシアさんもシバも危険がありそうな気配だけを掴むようにしているらしいので、僕と同じようにちょっとびっくりしているみたい。
歩いてくる音も聞こえなかったので、何か特別な魔法とかを使っているのかな?
「ランドフィッシュ、レベルEとは言えれっきとした魔獣だ。それを時間がかかったとは言え一発で……アレは美味いからな。俺達も何度もチャレンジしているけど、漸く水が綺麗になった最近でも月に一度上がれば良い方なのに!是非何をしたのか教えてくれ!」
なるほど、結構美味しかったけれど、この世界、この周辺の人達にも重宝されている魚だったんだね。
別に何か隠す事がある訳でもないから、一応事実を伝えておこうかな。
「えっと、餌を大きな肉にしただけですが」
僕達に話しかけてきているこの人はトリシアさんに一瞬目が行って固まったけれど、何とかランドフィッシュと呼ばれる魚を仕入れたいと言う思いが強いせいなのか、すぐに視線を外して反応してくれているので、今までの他の人とは違って少し協力してあげたい気持ちになるよね。
「……それは俺達もやっている。だが、このまま行けば使う肉が多くなりすぎて損にしかならないんだよ!魔獣の肉とは言え捨てて良い程安くはないからな」
だとしたら、使っている道具に違いがあるのかな?
「そうなると、道具に違いがあるのかもしれないですね。見せて頂いても良いですか?」
「ん?あぁ、ちょっと待っていてくれ」
こうして近くにある丸太の橋に向かって走って行き自分が使っていた竿を持ってきて戻ってくると、僕に渡してくれたよ。
「う~ん、竿や糸は特段何を使っても良いと思いますし、実際魚はかかっていましたからね。糸の強度も問題ない……残るは針ですけれど……やっぱり!」
今までこの人達は、魚を水面から出す近辺までは上手く行っていたのにその後全て逃げられていたので、針がおかしいと思っていたんだ!
その疑いは、現物を見て確信に変わったよ。
そう、返し……一度食いついた針が抜けないようにする先端の膨らみがなく、本当にただの針を曲げただけだったので、ついつい本音が出てしまったよ。
「これでひと月に一度釣れていたと言うのが凄いですね」
「え?お前の針と何か違うのか?見せてもらっても良いか?」
「はい、どうぞ」
実際に現物を見てもらった方が効果的だと思って僕の使っていた針を竿ごと渡すと、奪い取る勢いで針を見ているよ。
「この先端が違うのか。これは何のためにこんな形をしているんだ?」
「それは、一度魚が針を口にしたら、簡単に抜けないようになっているんですよ」
「本当なのか?って、実際目の前で釣れていたからな。ちょっとこれ、借りても良いか?」
正直無くなっても困る物でもないので了解の意を示すと、再び対岸に向かって餌をつけて糸を垂らしている……と、すぐに食いついたようで、他の人達も必死で応援しているみたいだね。
「ここまでは大丈夫だ。こっからだぞ!慎重に行け!」
「一匹でも釣れれば、使った肉より価値がある。頑張れ!」
糸が切れないように慎重にしているのがわかるので、僕とトリシアさんも思わず力が入っちゃったよ。
シバ?シバはまた僕の足の上で寝ているね。
「おい!一発かよ!やったぞ!」
そうこうしている内に無事釣る事が出来たらしく、竿を持って嬉しそうにこっちに向かって来るのが見えるよ。
「この針、すげーな。確かにランドフィッシュから外す時、今までにない程大変だった。俺達もこの形を真似しても良いか?」
僕が日本にいた頃の知識を基に作ったけれど、きっと大きな町に行けばこの程度は知れ渡っているだろうから秘匿する事もないよね。




