(8)アクア
水神アクアの脅しが良く効いたのか、即座にギルド本部に貼られていた国王からの書面は撤収され、その代わりに神国アクアを認めると言った書面が大々的に張り出される事になった。
あまりの変わり身にミツバ王国の四大公爵以外の貴族達は異を唱える者も少なくなかったのだが、国王は断じて決定を覆す事はなかった。
その影響か、ミツバ王国から完全に独立した一つの国家と完全に認識され、且つお酒好きな神がかなりの頻度で顕現すると言う噂の広がりと共に、新規の移住者が後を絶たない状況になっている。
門番のサイクロプスはそのような者達に時折怯えられるのだが、その場合には慣れた国民が新規入国者の目の前であからさまにサイクロプスに触れる事で安心してもらえるようになっており、逆にそこまで完全に使役されているサイクロプスがいる神国アクアは安全な国であるとの安心感に繋がっていた。
王都にあるギルド本部からは、神国アクアのギルドに対して国王からの有り得ない依頼書の代わりに、国家独立を認める書面が張られたと言う情報が送られており、その一報を受けて喜ぶユベル達をいつの間にか嗅ぎつけたのか、またもや水神アクアが顕現して宴が開催されてしまう。
アクアは、トリシアや地神バラドスと比較すれば遥かに短い期間制約を受けていたのだが、それでも目の前で苦しむ民に何もすることが出来ずに悔し涙を流しており、今その憂いが完全に無くなった事から、他人との触れ合いに飢えていた。
本来はこれほど頻繁に顕現してしまう神はいないのだが、アクアは孤独であった期間の飢えを満たすかのように何らかの気配を感じた時に気軽にギルドに顕現し、夜通し宴が行われるのが神国アクアの日常になりつつある。
「お!アクア様!そうか、今日も宴か!くっそ、そうと知っていればもっと早く帰って来たのに!」
夕方に魔獣討伐依頼を達成して戻ってきた冒険者は、ギルドに入ると宴が始まっているのを見て悔しそうにしているのだが、納品を終えて報酬をもらった直後から嬉しそうに宴に参加している。
「アクア様、我らとしてはお会いできるばかりか共に酒を酌み交わせてとても嬉しいのですが……その、色々と大丈夫なのでしょうか?お体にご負担とか、何かしら不都合はないのでしょうか?」
今まで見た事もない神と言う存在がしょっちゅう顕現してくるので、人である自分ではわかり得ない部分で問題がないのかを心配しているユベル。
「ん~?ユベルっち、だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶ。きちんと湖の仕事はこなしているかりゃー、にゃんも問題にゃーよ。アハハハハハハ」
呂律の回っていない状態で“バンバン“ユベルの肩を叩いているアクア。
ユベルはグデグテな姿を見て不安にはなっているのだが、神が大丈夫と言っている以上は信じる他ない。
お酒が入っていなければ非常に神々しいのだが、一度飲んでしまうと人間味に溢れていると言うか、極端に敷居が低くなるアクアを見て苦笑いしつつも、感謝を忘れる事のないユベルを始めとした国民達だ。
そんな中、アッサムが受付の奥で仕事をしている中で何か情報を得たのか、そっとユベルに近づき耳打ちする。
「旦那!ユベルの旦那!門からの連絡で、あの国王……ミツバ国王が入国を求めているそうですぜ?」
週に何度も宴になっているのだが、その際には必ず素面で周囲の警戒を自発的に行ってくれているアッサムが、ユベルに耳打ちする。
大声で言わないのは危険度が低いと判断している事と、ユベルの隣にいるアクアに余計な手間をかけさせないようにする為の配慮だ。
「わかった。アクア様、少し所用で外します。楽しんでいてください」
「アハハハ、真面目クン!頑張ってぇ~」
何とも言えない激励を受けて、アッサムと共に門に向かうユベル。
門に向かっている最中に犯罪奴隷ながら国民として活躍しているメンバー達は、何も言わずにユベルの護衛として合流して共に門に向かう。
やがて門の外まで見える位置に到達すると、そこには屈強そうに見える護衛を伴った立派な馬車があり、報告のあった通りにミツバ王国の紋章が見えている。
護衛の騎士は、少々遠くから歩いて来るユベルを視認すると馬車の中にいる国王に連絡したようで、ユベル達が門に到着すると同時に馬車の中から降りてきた。
少々挙動不審なのは、サイクロプスに慎重に観察されているので緊張しているからだ。
「ようこそお越しくださいました、ミツバ国王。今日はどう言ったご用件でしょうか?」
一応国家元首と言う立場である以上、普段通りの雑な言葉使いをするわけにはいかないユベル。
「……今日は他でもない。我が王都でも噂になっている水神アクア様に正式にお目通りさせて頂こうかと思い、態々訪問した次第だ」
重ねて言うが、今の二人の立場は同格ではあるはずなのだが、旧支配領域の一部の町であったと言う意識を完全に排除する事が出来ないミツバ国王は若干尊大な態度になっている。
「……そうですか。お気持ちは良くわかりますが、我ら神国アクアの守護神であるアクア様は多忙でしてね。毎日顕現して頂けるわけでもありませんし、王族の方々に長期的に宿泊して頂くような立派な宿もありません。残念ですがお引き取り頂く他ないですね」
本当はしょっちゅう顕現してグデングデンに酔っぱらっており、威厳も何もあったモノではなく、今この瞬間も継続して騒いでいる事が容易に想像できるので、そのような姿を潜在的敵国であるミツバ王国の国王に見せるわけにはいかないと拒絶するユベル。
この場にいる近衛騎士達はユベルの不敬な態度に一瞬殺気立つが、遥か上方からの厳しい視線を感じて殺気は一気に霧散する。




