(7)依頼の結果
イワイやロドリコが何とか神国アクアから脱出して一息ついている頃、この短い時間で神国アクアのギルドの中に併設されている食堂兼酒場では、朝も早くから水神アクアを中心に宴が開催されている。
お酒が入ると素が出始めるアクアをありのまま全て受け入れ、尊敬し、敬愛し、崇拝している国民達は、今日の仕事はもう無理だな!とさっさと見切りをつけて楽しんでいた。
同時刻、森の中にある街道ではイワイとロドリコ、そして未だに意識を戻さない四人の冒険者、更にはミツバ王国からの依頼であるサイクロプスの討伐、ユベルの始末を実行しようとこの場所まで来ていた冒険者達が、暗い雰囲気を醸し出しながら会話をしていた。
「で、本当に神がいた……と。それで、俺達が受けた依頼の事を口に出して、二度目はないと脅してきたと言う事で間違いないのか?」
「そうだ。俺だって神なんて信用しちゃいなかったさ。だが、あれは紛れもない神。お前らも目の前でその圧を受ければ嫌でもわかる。疑うのであれば行ってみろ。だが、その前にサイクロプスに捻り潰されると思うがな」
少々怯えながら話す銀色のカードを持つロドリコの言葉は、その立場からも非常に重く受け止められている。
あの空間で、トリシアとは気が付いてはいないが有り得ない力を持っている存在をその目で見た経験があるイワイは、あの存在こそが今ここで話されている神であると確信し、この世界には間違いなく神がいると判断した。
「ロドリコの言う通りだ。正直あのサイクロプスの圧とは全く種類は違うが、俺にはあの神の方がはるかに恐ろしい。俺は……俺達はこの依頼を降りる」
正直にありのままを話すとロドリコも激しく首肯し、その姿を見た冒険者達……
依頼を完遂して国王からの報奨を得る事を夢見ていたのだが、高レベルの者達がここまできっぱりと神の存在を肯定し、且つ依頼を完全に降りると宣言しているので、門番のサイクロプスの恐怖にすら打ち勝てないこの場の者達がこれ以上依頼を遂行する事は出来なかった。
「神からは、こうも言われた。この事実を広めろ……と。おそらく同じような依頼を受けて少し前の俺達と同じように期待に胸を膨らませているバカがいるだろう。そいつらにも積極的に事情を話して、無駄な事はしないように伝えてくれ」
「イワイの言う通りだ。それに、神はこうも言っていた。二度目はないし、ミツバ王国の王都に罰を与える可能性がある……と。ここで更に逆鱗に触れてみろ!最悪俺達も罰の対象になりかねない。悪い事は言わない。お前達も無駄な事はやめて、神の指示通りに事実を伝えて無駄な行動をとらないように伝えるんだ!」
必死の形相である二人を見て、もう選択肢は言われた通りにする他ないと全員が神妙な面持ちで頷き、踵を返してそれぞれの拠点に帰還し始める。
イワイとロドリコは少々休憩している最中に助け出した冒険者が意識を取り戻し、軽く事情を聞けば……ユベルを直接始末しようとした所、突如として現れた青目青髪の美しい女性によって訳が分からないまま吹き飛ばされた所までしか覚えていなかった。
もちろん親切心ではなく、自分達に水神アクアの視線が向かないように全ての事情を話して拠点に戻るように伝えてから移動を始めるイワイとロドリコ。
「そう言えば、あの水神はシズルとトリシアの名前を出していたな。俺は教え子に対して恩師としての立場から事情を聞かなくてはならないな」
「約束……とか言っていたか?おそらく国を守る事だとは思うが、神に約束させるほどの立場なのか?確かに気になるところだ。仮に相当な恩を水神に売っているのであれば、恩師の立場として俺達を水神に売り込ませる事も可能かもしれない」
どこまでもおめでたい脳みその二人だが、今はミツバ王国の王都に戻る訳にもいかないので、そうならないようにしつつも神国アクアから離れる方向に歩を進めている。
彼等二人が出会う冒険者は二人が進んでいる方向から考えるとミツバ王国から来ている可能性は極めて低いのだが、神国アクア方面に向かっている冒険者を見つけた際には全ての事情を話して、絶対にサイクロプスやユベルはもとより、神国アクアの民を傷つけるような事はするなと釘を刺していった。
同様に国王の書面を見て依頼を達成するべく神国アクアに向かい、あの場で解散した冒険者達も同じような行動をしているので、ギルド本部での張り紙と言う証拠がある以上、ミツバ王国の国王の評判は一気に地に落ちた。
「陛下、どうやらあの依頼は最早誰も受ける事は無いようです」
「どう言う事だ?未だ達成の報は受けておらぬが?」
円卓を囲んで四大公爵と共に話をしているミツバ国王。
そこで再び聞かされた神の顕現と、依頼の書簡を証拠として倫理感の欠片もない国王の行動が広く知れ渡ってしまった事を知る。
「だ、だが、神などでたらめだ!」
「あなたがミツバ国王ですか?」
そこに、聞いていた通りの見た目とても神々しい雰囲気をしている水神アクアが顕現した。
「衛兵、何をしている!」
公爵達も騒ぎ出すが、神域魔法を使えない状態でも神として隔絶した力を持っているアクアは、慌てずに落ち着いた状態のままこう告げる。
「無駄な事は止めましょう。声は聞こえないようになっていますよ?それに直接助けを呼ぼうにも、もう動けませんよね?」
ここで初めて自分達が椅子から立ち上がれない事に気が付いた四大公爵と国王。
「一度だけ伝えます。神国アクアの依頼は即時撤回。次に余計な事を仕掛けた場合、容赦なくこの王都、そしてそれぞれの領地を叩き潰します。良いですね?」
返事を聞く間もなくうっすらと消えていく水神アクアを見て、この場の全員が得体のしれない恐怖を感じていた。




