(5)イワイ達
食堂兼酒場で飲み食いしていると嫌でも周囲の冒険者達の声が耳に入るイワイとロドリコだが、ロドリコは恥ずかしさから深酒しているようで内容は理解できていないように見える。
イワイ達がこの場所に来るまでに得た情報は、王国からの依頼の事だけ。
その中にはサイクロプスの存在もあったのだが、この場ではそれ以上の話を聞く事が出来ていた。
周囲の低レベル冒険者達がこの国に来た一つの要因である、水神アクアの話だ。
「おい、本当にお前は水神アクア様を見たのか?」
「あぁ、言葉では表現できない程に神々しいお方だが、共にここで酒を飲んで俺達にも優しく接してくださる方だったぞ。それに神としての威厳……なんと説明すれば良いのか、王国所属近衛騎士達が一睨みで跪く程だ」
どうやら一人の冒険者はあの騒動の時に既に国民としてこの国にいたようで、羨ましそうに色々と聞いて来る仲間の冒険者に対して自らがその目で見る事が出来た水神アクアについて詳しく説明している。
「アクア様は湖の水の管理を全て担って下さると仰った。事実、どれだけ畑や生活に湖の水を使おうが、雨が降ってもいないのに常に綺麗な水が溢れんばかりに存在している。まさにあの透き通った水のように純粋なお方だ!」
「くそ!俺も家族を避難させていなけりゃ顕現に立ち会って、その目にアクア様を焼き付けたのに!それに、一緒に飲んでくださる神!羨ましすぎるぞ!」
「ハハハハ、残念だったな。次はいつになるかはわからないが、期待に胸を膨らませているんだな」
イワイはチラッと冒険者の方を見ると二人はある程度のレベルの冒険者らしく、その後今日の依頼の魔獣の討伐の話に移行してしまったので、聞き耳を立てるのを止めて自分も酒を煽るのだった。
「ここの酒は何と言うか、飲みやすかったな」
「ハハハ、イワイ!お前が住んでいた田舎にも酒があったのか?まぁ、王都の酒に慣れている俺でもそう思ったのは事実だな」
翌朝、ギルトの食堂兼酒場で酔いつぶれて寝てしまった二人は従業員に呆れたような視線を向けられながらも硬くなった体を解している。
そこに、漸く話しかける……即ち料金を徴収できると従業員が近づいてくる。
「お客さん、次はこんな所で一泊しないでおくれよ?ま、酒を褒めてくれたから今回は大目に見るけどね」
どう見ても自分達に非があるので、素直に謝罪するイワイとロドリコ。
「あぁ、申し訳ない」
「悪かった。だけど、本当に王都の酒よりも美味く感じたぞ?秘訣があるのか?」
「秘訣と言うよりも……酒自体は王都と変わらないと思うけど、水割りの水が違うんだよ。我ら神国アクアが誇る水神様の加護のついた湖の水を使っているからね」
従業員の表情は手放しで褒められて悪い気がしないのか、呆れから自信満々の喜びに変化している。
「全ては水神アクア様と、この場所を国として復活してくれたユベルさん、復興に力を貸してくださったシズルさん、トリシアさん、シバのおかげだね。ホイ、まいど!また御贔屓にしておくれよ」
こうしてギルドを一旦後にする二人だが、従業員の最後の言葉に出てきたシズルやトリシアの名前には思う所があった。
二人にとっては非常に洗練された美しさの中にも可愛さが内包されたトリシアと、トリシアの意思を完全に無視する形で強引に連れまわしているシズルと言う図になっている。
特にイワイは、あの場所で大概の願いを叶えてもらえる事を知っており、その願いによってシズルがトリシアを手に入れたと思っているから質が悪い。
「イワイ、トリシアさんがここにいたんだな」
「そうだな。未だにあのクズと一緒にいるのが気に入らない。一刻も早く助け出さなくては」
「それには同意だが、何処に向かったのかを調べないと追えないぞ?」
この時点でユベル殺害の依頼については頭から消えているイワイとロドリコ。
いかに早くトリシアをシズルの魔の手から救い出すか、そして救世主たる自分に惚れるトリシアと言う所までを想像して悦に浸っていた。
……ドドドドド……
すると、少し前に自分達がいたギルドから大量の水が数人の冒険者と共に流れ出てきた。
「な!!!誰があれほどの水魔法を行使したのだ!?」
「ロドリコ、そんな事より何が起きたのか調べるぞ。ひょっとしたらタナボタもあるかもしれない」
イワイは比較的冷静に状況を把握しており、今の水魔法は少々レベルの高い冒険者が国王の依頼であるユベルを始末するために放った魔法だと思っていた。
だが、ギルドの中でギルド長を始末するにはあまりにも目立ちすぎているので、大きな反撃にあったのではないかと思い、その状況であれば弱っているギルド長を自分達が始末できる……漁夫の利を得る事ができるかもしれないと考えたのだ。
走りながら軽く考えをロドリコに説明して、ギルドの入り口前に押し出されて倒れている冒険者には目もくれずに中に入ろうとしたのだが……
中からはトリシアに負けずとも劣らない容姿と雰囲気の女性、透き通るような青い目と青い髪をした女性が出てきたのだ。




