(29)旅立つ二人
神が大陸に顕現して神としての絶大な力、所謂神域魔法を使う事は、魔神のように何かを犠牲にして得た力を使う必要があるので、基本的には不可能。
とは言え普通の人族が使う以上の奇跡とも言える力を行使する事はできるのだが、アクアは湖の水の管理を制約解除後すぐに始めていた事もあって、現時点では今回の対処にあまり力を使う事が出来ない状態にあった。
その為に少々の脅しをかけてあの場を後にしたのだが、その事実を知っているのはアクア本人と同格の存在であるトリシアだけ。
一方で脅迫ともとれる言葉を投げられてしまった四人の召喚者やミドハルナスを始めとした近衛騎士達全員が、最早この場所をミソロ町として自国に組み入れる事は不可能だと判断していた。
一度アクアの顕現を体験しているユベルは悠々と立ち上がるが、ミツバ王国の面々は未だ足に力が入らずに膝をついたまま。
「これでわかったか?最後にもう一度だけ伝えてやる。ここは神国アクアであり、お前等とは一切関係のない独立国家だ。当然敵対する可能性の高い不穏分子を国内に入れるわけにはいかない。湖の調査もお前等には一切必要のない事だ」
言いたいだけ言うと、動けない連中を気にする様子もなくシバと共に門に戻って行くユベルを真っ先に迎えたのは、頭脳でユベルをサポートしていたアッサム。
「流石はユベルの旦那。良い啖呵でしたぜ?」
「いや、流石なのはアッサムだ。俺はどちらかと言うと頭脳は宜しくないからな。今後も国の発展の為によろしく頼むぞ!」
「へい!あっし達を迎え入れてくれたこの国の為に、全員、全力でサポートさせていただきますぜ!」
すっかり出番のなかったシズルとトリシアだが、逆にこの様子を見て自分達がいなくなった後の不安が消えてくれた。
もちろんその日の夜には、最も問題となり得る外敵を無傷で排除できた事を祝う会が神国アクアで盛大に行われ、もう二度も顕現したのだから三回目も変わらないとばかりに、アクアまで現れて飲めや歌えや!の大騒ぎに発展した。
「ふ~、楽しかったですね。この国に対する問題も排除できましたし……これならば新婚旅行に行けますね?トリシアさん」
「そうですね、静流様。ですが、アクア……私が言うのもなんですが、ちょっと顕現しすぎのような……」
トリシアは天空神であり、司るのは異世界との狭間とも言える空間である天空であり、この大陸に顕現しても、この大陸に住む者達には馴染みがなく結果影響も大きくはないのだが、アクアは違う。
彼女は水神であり、この大陸の生物全ての命の根源とも言える水を司っているので、誰しもが崇め奉る存在になり得る。
つまり、そのような存在のアクアがヒョイヒョイ気軽に顕現すれば、神と強い繋がりもって、あわよくば……と言う人物が現れないとも限らないし、他の問題も出てくる。
アクアを巡って大戦争にすらなりかねないので、その辺りを心配しているトリシアだが、自分と同じように一人で長きにわたって苦痛を味わっていた事も理解しているので、他の存在との触れ合いに喜びを感じている事も良くわかり、強く言えずにいた。
このようにトリシアだけにしかわからない葛藤があるので、そこは伏せて当たり障りのない言葉で問題ないと伝えるトリシア。
「ですが、大丈夫ですね。ユベルさんを筆頭に、皆さん素敵な方達ばかりですから」
トリシアの隠れた思いはわからずとも、アクアを含めてこの国は絶対に大丈夫だろうと思っているシズルも同意する。
「本当ですよね。実はあの元盗賊の方々……申し訳ないですが、この状況でどう動くのか本当に少しだけ心配していたのですが、今回の件で全員が心強い仲間である事がわかりましたからね!」
二人の視線の先には、今までとは違って酒のせいで素を出してしまっているアクアが、周囲の民に絡んで苦笑いされている姿が映っている。
住民としては、神っぽさが薄れた素のアクアの方が受け入れやすいと感じているのだが、恐れ多くも神である以上はそのような事は口に出せないまま、この一時を楽しんでいた。
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「何?本当の神だと?その根拠は何だ?」
ミツバ王国の王都に戻った一行は、四大公爵の子息、息女、その親である公爵家当主、同行していた近衛騎士の一部と共に国王と謁見していたのだが、国王としては本当の神が元ミソロ町に対して加護を与え、あまつさえ目の前に顕現して脅しをかけてきたと突拍子もない事を言われたので、非常に機嫌が悪い。
当然各公爵家当主も、いくら息子、娘、近衛騎士達が異口同音に訴えてもあり得ない事だと切って捨てたのだ。
公爵家としては新たな税収を失ったばかりか、このままでは国王からの信頼も失いかねないと思い、この場で思い切った決断をする。
そう……息子、娘である召喚者達を王都から追い出す事にして、領地にある本邸に戻るように指示を出した。
これは、王都で他の貴族・王族達とのパイプが作れなくなる事を意味し、公爵家を継ぐ立場から脱落した事と同義だ。
そこまで知る訳もない四人はこれで自由に行動ができる、即ちシズルとトリシアを追えると考えて快諾したので、図らずもあの場所の願いによって公爵家を継承する立場を失った本来の継承者に、継承権が戻ったのだ。
四人は元ミソロ町に現れた神の逆鱗に触れるのは恐ろしいが、町……今は神国アクアとなっている場所に影響がなければ問題ないと考えているので、喜んで王都を後にした。




