(27)騎士とユベル
流石の近衛騎士でもサイクロプスの物理的な攻撃範囲に入るだけの余裕はないので、相当距離が離れた位置で止まり、大声で神国アクアの門の方向に向かって叫ぶ。
「私はミドハルナス。ミツバ王国の代表としてユベル殿と会談がしたい」
門内部や防壁の上にいる面々、特に代表としての立ち位置で活動しており指名されてしまったユベルは、どうするべきかと思案する。
残念な事に元高校生の立場であったシズルやこの世界の人の感情についてあまり詳しくないトリシアでは、この状況で何かを助言する事は出来ない。
シズルやトリシア、テイマーのミドハルナスよりも少し後方に位置していたユベルはこの申し出を受けるべきだと判断したのか徐に立ち上がるのだが、それに待ったをかけたのは……元ミソロ町の住民を拉致する際に御者をしていた犯罪奴隷のアッサム。
元盗賊崩れの一団の中で唯一ジョブを持っていない存在であったのだが、全ての作戦を立案してきた頭脳の持ち主であった。
「ユベルの旦那。会談するのは結構ですが、立ち位置と護衛についてははしっかりと考えた方が良いですぜ?あのミドハルナスとか言う男は自分の所属は明確に言っているのに、こちらの国名は言っていない以上、独立を認める意思はないはず。何があるかわからないので、慎重に事を運ぶ必要がありやす」
「そうか。そこまでは至らなかったな。サイクロプスの咆哮だけで戦意を失って俺達が有利と考えてしまった。助言、助かるぞ、アッサム」
「へへへ、あっし達も神国アクアの住民ですから。故郷が無くなっちゃ~、帰る場所が無くなっちまいますからね」
シズルやトリシアは思わぬ才能を持っていたアッサムに感心しながらも、自分達では力になれない領域だと口をつぐんで成り行きを見守っている。
もちろん何かあれば全力で助力するつもりではあるのだが、無駄に戦闘を行うつもりはない。
「どうでしょう。ここはシバの旦那に同行頂くのは?失礼ですが、見た目はとても強くは見えないので、向こうも油断するはずですぜ?そうなれば本音を見せるはず……って、シバの旦那には負担をかけちまいますが」
シバの今現在の実力をある程度理解しているので、ユベルが危険な状態になるとは全く思っていないアッサム。
「なるほど。こちらの戦力は少ないと見せかけて油断させ、場合によっては俺を人質にできる状況にするわけだ。で、その反応如何によって対処を変える」
「その通りですぜ、ユベルの旦那。向こうが不穏な動きをしたならばシバの旦那の出番。そうでなければ話だけは聞いて下さい。ですが、その場で判断せずに必ず持ち帰る方向でお願いしやす」
「ワンワン!」
「シバも任せろと言っています。じゃあシバ、お願いね?」
こうしてミツバ王国側の本心を探るために、わざと隙を見せる形でシバと共にミドハルナスの元に向かうユベル。
ミドハルナスの視線は、自らの元に近づいて来るユベルと同行してくる獣に向いている。
「俺が神国アクアの代表であり、ギルド長でもあるユベルだ。で、会談の内容は?」
互いが手を伸ばせば触れられるほどの距離に近づいたユベルはそこで立ち止まり、会談内容について問いかける。
いくら近衛騎士のミドハルナスとは言え、武器も防具もない状態でギルド長を不意打ちできるわけもなく、忌々しく思いながらも次の手に移行する。
「実は、この町の湖が復活したと聞きまして調査をしたいと訪問したのです。それと、廃墟になっている現状を把握した上で復興をしなくてはならないので、その費用を算出するためにも現状調査を……と命を受けております。今回の遠征の責任者は四大公爵のご子息、ご息女方となっているので、そちらから事情を説明いたします」
口調は丁寧だが、所々に国家として認めずに未だに町であると主張し、まるで自分達の領地であるかのような物言いをしている。
ミドハルナスは振り向いて四大公爵の子息、息女、召喚者四人に目配せをすると、四人は護衛を引き連れて進んでくる。
これこそがミドハルナスの策。
立場のある者であれば護衛は必須なのは周知の事実であり、ギルド長ともなれば当然知っているべき事柄なので、敢えて四大公爵の子息、息女と説明した上で呼び寄せている。
ミドハルナス自身は武器がなく丸腰であっても、公爵家子息、息女の護衛として武器を持った騎士数人が自然な流れでこの場に来る事で、ギルド長一人程度は難なく捕虜にできると判断したのだ。
呼びかけに応じて進む召喚者とその護衛の騎士達。
騎士達はミドハルナスの意図を正確に把握していたのだが、四人は違う。
その視線はシバに釘付けになっており、以前ギルドでイワイをバカにしようと出向いた際にシズル、トリシアと共にいた獣だと疑っていた。
確信に至らないのは、この短時間で自分達の記憶よりも遥かに大きくなっていたからなのだが……これは日本の記憶に引っ張られてこの世界の魔獣に対する知識が不足しているが故なのだが、仮に同一の獣だとすれば、まさに目的の人物であるシズルとトリシアがこの場所に居る事になるので、少々はやる気持ちを抑えて進んでいる。
「フッ、お前がユベルか。俺は、ユーヤ・リーシルだ」
リーシルの名前を聞いて、前領主がこの国の所有権を厳しく主張するのかと警戒するユベルだが、続く言葉に何を考えているのかわからずに困惑する。
「フッ、国がどうのこうのはミドハルナスから別に話すとして、俺からは一つ重要な事を聞きたい」




