(24)アクア顕現
今この町で活動をしているハナを除く全員が集まっている中で、代表的な立ち位置にいるギルド長のユベルは現状を説明し始める。
「今日集まってもらったのは……元領主のリーシル公爵を始めとした四大公爵から、湖復活の事実確認の連絡がありました。今この町は誰にも管理されていない、いわば独立した町です。おそらく湖完全復活後の町の発展を見据え、見苦しくも領地とするべく企んでいるのです」
町民達は、真剣にユベルの言葉に耳を傾けている。
「危機的状況に何も手助けをしない領主など不要と私は考えています。税を納めるのは、庇護に対する対価!庇護なくして対価だけ求めるなど、あってはならないのです」
危機的状況と言う言葉にバツが悪く下を向いてしまう犯罪奴隷達だが、周囲の町民に笑顔で軽く肩を叩かれて苦笑いしている。
「それと看過できない件がもう一つ。この町最大の恩人であるシズルさんとトリシアさん夫妻を、四大公爵の子息、息女共が狙っているのです」
今まで大人しく聞いていた町民達は、この言葉を聞いて怒りの言葉を全員が口にする。
「ふざけやがって、何が四大公爵だ!」
「そうよ!何も助けてくれないくせに、恩人に対する無礼だけは平気で行うなんて許せないわ!徹底抗戦よ!」
この騒動は暫く収まらなかったのだが、何とかユベルが抑えて続きを話す。
「おそらく数日しない内に出来損ないの公爵家の子供がやってくるはずです。俺はシズルさんとトリシアさんの事を見てもいないし聞いてもいないと返事をしてはいますが、声を聞く限り全く諦める様子はないので、徹底的に調べられる可能性があります」
町民と同じようにこの説明を黙って聞いているシズルとトリシア。
特にシズルは召喚者である岩井先生のあの態度から残りの四人も同じような態度なのだろうと納得はするのだが、女性であるショーコとヨシエは何を狙っているのか理解できない。
ユベルの説明では自分を狙っているかのような口ぶりに聞こえたのだが、まさか日本で相当険悪な態度を取られていた為に、本当に自分狙いだとは理解できなかった。
「どうしましょうか?静流様」
「え?あ、そうですね。町の皆さんに迷惑をおかけするわけにはいきませんので、残念ですが旅に出る方が良さそうですね」
「そうですね。でも、復興も完全にできていないのに中途半端で申し訳ないです」
この話を聞いていた周囲の町民達。
「そんな事はないですよ!正直お二人とシバがいなくなるのは本当に寂しいですが、新婚旅行を楽しんでください!」
「そうそう、楽しい旅行を台無しにする方が私達は辛いよ。ここまでしてくれたのだから、あとは私達に任せておくれ」
優しい町民の言葉に嬉しそうに微笑む二人だが、内心は自分達が原因で迷惑をかけてしまう事に後ろめたさを感じていた。
「そ、そうです!水神にこの町を任せましょう!」
トリシアの言葉に、町民達はざわつく。
そのざわめきを聞き取ると、どうやらこの町に根を下ろしていた水神は湖の水位が減少した頃に力が衰え、枯渇したときに亡くなったと思われていたようで、湖復活が水神復活と同義だと思える人はいなさそうだ。
「私の祖先は水神様に毎日感謝して生活していたと聞いていますが、湖の水が目に見えて減少し始めてからは心配に変わり、枯渇してからは崇める神が亡くなったと言われています」
すっかり水神が亡くなったと信じている町民達なので、とある女性がトリシアに優しく事情を説明している。
トリシアとしてはどう説明して良いのかわからずに、困った顔をしているだけ。
もちろんシズルも上手く説明できるわけもなく途方に暮れていると……
「皆さん、心配をかけましたね」
うっすらと姿を現し始める水神アクア。
本来、神が顕現する事は無いと言われているほど貴重な出来事であり、町を挙げて祀っていた水神が顕現した事に感激で涙を流す者、嬉しさに震えが止まらない者、様々だ。
シズルとトリシアは少し前に会った時と雰囲気が全く違い、神の威厳を出す為に取り繕っているように見えるので笑いを堪えるのに必死になっている。
一瞬ジロッと咎めるような視線を二人に向けた後に、アクアは水神らしい雰囲気を曝け出したまま人々に語りかける。
「私は水神のアクア。皆様には長きにわたって湖の件で心配をかけました。ですが、もう大丈夫です。これからあの湖を中心にこの町の発展を見守ります。皆様が今話をしていた公爵家の対応……本来神が地上の事に直接手を出す事は良くないのですが、今回に限り、湖の件で心配をかけた罪滅ぼしとして私が対応しましょう。基本的に町の庇護は行いますが、なるべく皆様の力で発展させるのですよ?」
トリシアにも負けない程の美しい微笑と共に徐々に消えていく水神アクア。
いつの間にかシズルとトリシアを除く全員が、アクアのいた場所に向かって拝むように膝をついて祈っていた。
「俺達には神の、水神アクア様の加護がある!」
誰が言ったのか、この一言でユベルもとある決断をした。




