(22)水神アクア
水神の元気な様子から魔神による制約は解除されたと判断しているトリシアだが、シズルはそこまで判断できず、単純に復興に力を入れて制約からの解放と言う仕事を忘れていた事を恥じて申し訳なさそうにしている。
「でも、皆のおかげで助かったわ。あのクソゴアの制約が解除されたから、自由よ。だから目の前でイチャイチャされても少しも問題ないです~。別に羨ましくて涙チョチョ切れているわけではないです~」
どうやらこのアクアと言う水神は軽い性格らしくニヤニヤしながら二人を見ているのだが、真面目なシズルは制約が解除されたと聞いて、その部分だけに意識が向いている。
「あっ、そうだったのですか!それは良かったです。えっと、解除条件は……この湖ですか?」
「そうなのよ。あのクソゴア、この湖を枯渇させるような制約をかけて来たの。頭に来ちゃうわよね。ここは私の大のお気に入りの場所だったのにぃ~!!今迄は私が適切に水量を調整していたけれど、逆にその能力で徐々に干上がるようにさせたのよ。この町を廃墟にして、その後アイツが司っているダンジョンでも作ろうとしたのかしら?」
漸く制約が解除されたからか、湖が元に戻っているからか、表面上はあまり怒っているようには見えない水神。
「解除条件は、水をかなりの速度で吸収する湖を以前のように豊富な水で満たす事だったのよ!ホント底意地悪いクソゴア!私が水を枯渇するように設定させられているのに、この広大な湖を水で満たす事が解除条件なのよ!色々な人族が必死で水魔法を行使していた姿を見て、本当に申し訳ない気持ちだったわ」
「それでは雨が降らなくても、これからのは湖は問題ないと言う事ですか?」
「ウフフ、僕は可愛いわね。その通りよ」
突然水神がシズルに優しく微笑んだので、慌てて二人の間に入るトリシア。
「ちょ、ちょっとアクア!私の旦那様に色目を使わないで!静流様も私だけを見てください!」
真っ赤になりつつも、可愛らしく頬を限界まで膨らませて抗議しているトリシアを見たアクアは、大声で笑いだす。
「プッ、アハハハハハハ、冗談よ、冗談。あ~おっかしぃ。ムキになっちゃうトリシアも可愛いじゃない?えっと静流……召喚者なのね。シズルで良いかな?」
「はい、水神様。トリシアさんの夫のシズルと申します。宜しくお願いします!」
トリシアの不安を取り除く意図であえて夫と言う事にしたシズルだが、やはり少々恥ずかしく赤くなっている。
「アハハハハ、お似合いね!二人揃って赤くなっちゃって!ホント楽しませてくれるわね。屈辱的な制約の解除直後に、こんなに楽しめるなんて思っていなかったわ!アハハハハ」
本当に楽しそうなアクアをよそに、言われている二人はますます真っ赤になっている。
「アラ?こっちに向かって来る人がいるわね。とりあえず私はこれで失礼するわ。また笑わせて頂戴ね?」
「あ、その水神様!その魔神ですが二度と城から出られない制約を地神様がかけたので、安心だそうですよ」
「え?そうだったの。流石は年の功ね。ありがとうシズル、ありがとうトリシア、そして君はシズルの眷属かな?君もありがとうね?これからこの湖は私が管理できるから、もう枯れる事はないと町の人に伝えてくれるかしら?」
「はい!お任せください、水神様」
シズルの言葉と、トリシアの優しい微笑、シバのつぶらな瞳を見ながらうっすらと消えていく水神アクア。
「お~い、って、おいおい!水が流れてくると思ったら、湖が復活しているぞ!」
アクアが気配を察知していた通りにこの町の復興を行っている人の一部がやってきて、視界に入った見た事もない美しい湖の状態に歓喜している。
「私、本当に復興作業が楽しくて水神の事を忘れてしまっていました。恥ずかしいです、静流様」
「僕もですよ、トリシアさん。でも、これでこの町は大丈夫ですね?」
「ワンワン!」
最大の懸案である湖が復活した為に、この日の夜は少ない住民と犯罪奴隷達にも豪華な食事が振舞われて楽しい一時を過ごす事が出来ていた。
この食事が、犯罪奴隷集団の意識を大きく変えるきっかけになったとは知らないユベル達。
「お頭、俺はこの町の復興で生涯を終えても良いと思っています。なんだか必死に作業している町民の連中を見ると、俺はバカだから上手く言えませんが心にグッとくるものがありまして……」
「確かにな。あの何とも言えない達成感。実は俺も、この町の綺麗な湖を見た時に心が洗われた気持ちになってな」
こんなやり取りがなされていた事を町民達は誰も知らないのだが、この日以降犯罪奴隷達が自ら積極的に復興を行っている姿が見られ、その姿を見た町民達の彼らに対する態度が大きく変わり始める。
こうして復興が順調に行われているのだが、その全てが順調と言うわけではない。
問題は、逃げて行った者を含めた町民の勧誘と、この町の立ち位置をどうするのか。
この町はどこの国家にも属していない、いわば中途半端な状態になっているので独立する事も選択肢ではあるのだが、その際には湖の復活によって町が発展すると見込んだ元領主であるリーシル公爵と戦闘になる可能性が高い。
最大の懸案である湖の復興があっという間に終わってしまったので、先送りにしていた問題を解決する為に頭を悩ませているユベルだが、今の所打開策は見つかっていない。




