(20)水の注入
この中で最も大量の水を出しているのはトリシアであり、次にシバ、最も少ないのがシズルとなっている中で、予想以上に現状に変化がない事に焦るシズルはこう呟く。
「これは、思った以上にきついですね」
しかし自らの修行も兼ねているので望む所だと言わんばかりに、力を入れ続けているシズル。
結局この日はシズルが魔力枯渇で倒れるまで水魔法を行使したが、湖は泥沼状態から脱する事は出来なかった。
「ご迷惑をおかけしました」
その日の町の元宿の一室には、目を真っ赤に腫らしたトリシアと心配そうにシズルの顔を舐めているシバがいた。
シズルが倒れてしまったのでトリシアが取り乱して無駄に回復魔法を行使し続け、比較的冷静になれていたシバが落ち着かせてこの場所に連れて来たのだ。
「本当です!心配しましたよ、静流様。もう無理は絶対にしないでください!」
「はい。本当にごめんなさい」
どう見ても非は自分にあるし、心配してくれているトリシアに対しては謝る以外にないシズルは、ひたすら頭を下げている。
「ふ~、でも魔力枯渇で良かったですよ。他の何かであればどうすれば良いかわかりませんでしたから」
「本当に心配かけてごめんなさい。でも、あれほど力を使っても水が溜まる気配がないなんて、どれだけ早く吸収しているのですかね?」
「そうですね。私も予想以上に水が吸収されている事に少々驚いています。ここは少しだけ、助力を願う必要があるかもしれませんね」
突然助けを求めると言い出したトリシアだが、シズルとしては誰に助けを求めるのかがわからない。
ユベル達は別の仕事で忙しいので対象になり得ないからだ。
「トリシアさん、誰に何をお願いするのですか?」
「それはもちろん地神ですよ、静流様。直接大陸に影響のある物を司っている神の移動はあまりお勧めされませんが、少し来てちょちょいと水の吸収率を下げてもらうようにする程度であれば問題ありませんから!」
自信満々の笑顔で告げてくるトリシアだが、そのあたりの制約については知識がないのでそうなのかと思うしかないシズル。
「でも、どうやって連絡するのですか?」
「神域魔法であれば直接連絡できるのですがここでは使えないので、直接伝えに行くしかないですね」
「ワン!」
まるで任せろと言わんばかりに、自信満々に胸を張って吠えるシバ。
感情を読み取れるシズルは、そのやる気に感謝して任せる事にした。
「じゃあ、ちょっと待ってね」
いくら神とは言え眷属でもなければ、共に長きを過ごした仲間でもない地神がシバの感情を読み取れる訳もないので、手紙を書く事にしたシズル。
とは言っても、いくら元宿の一室であったとしても町が破壊されているので紙などある訳もなく、そのあたりに落ちている木に事情を軽く書いてシバに渡す。
「ウォン」
口に咥えている為に濁った鳴き声になっているが、そのまま去って行くシバ。
「静流様、これできっと大丈夫ですよ。今日はゆっくりとお休みになってください」
さりげなくベッドに座り、優しくシズルを引き込んで頭を膝の上に乗せて笑顔のトリシア。
「ありがとうございます、トリシアさん。お言葉に甘えますね」
そう言いながらも、トリシアの優しい雰囲気やそっと撫でてくれている感触によって意識が消えていくシズルだ。
翌朝、いつも以上に快適に目覚める事が出来たシズル。
「おはようございます。すっかり元気になりましたよ、トリシアさん」
「それは良かったです」
笑顔で朝を迎えて朝食をとっている二人。
「今日はどうしましょうか?シバが戻らないと湖対策はできませんし」
「静流様、シバは間もなく地神を連れて戻ってきますので、今日はこの後再びあの湖にチャレンジですよ!絶対に水を溜めましょう!!」
こうして部屋を出て再び湖に向かう二人だが、時間はトリシアが調整していたようで、丁度湖に到着する時にシバと共に地神がやってきた。
「すぐに再び会えるとは思っておらんかったぞい。じゃが……フム、この大地か。なるほどのう」
挨拶もそこそこに元湖の底に降りて、すっかり干上がった状態に戻ってしまった地面を見ながら何やら呟いている地神。
「確かに、他の大地に比べて異常に水分の吸収が高くなっておるのう。じゃが……これで大丈夫じゃろう。それじゃあの!」




