(18)故郷
王都にあるギルド本部の職員と魔道具を介して通信しているユベル。
核心をついてしまい、相手の言葉に歯切れが無くなってしまったのでフォローを入れておく事にしたようだ。
「お前に文句を言っているわけじゃないから気にするな。それぞれ立場があるからな」
たとえ本部のギルド長であったとしても、ギルドを運営するにあたって多大な寄付を行っている貴族や国家に対して、公に否と言える事はあまりない。
今回の場合で言えば、もう廃墟になる事が確定している町を見捨てる事を強制されたと予想していたユベルはその考えが正しかったと確信するに至ったが、相手の職員に恨みは一切ない。
逆の立場であれば他の職員にも迷惑がかかる可能性がある上に自らの立場も危うくなる事から、町の復興協力断念の指示があれば従わざるを得ないだろうと納得したのだ。
「じゃあ今この場所は誰の管理地でもないと言う事だな?」
「そうなりますね。ユベルさんが所有権を宣言しますか?」
ギルド本部の職員は冗談でそう言っているのだが、ユベルは本気でこの町を所持しようか考えを巡らせていた。
水は……魔法でどうにかなりそうであり、そうすれば以前のように農耕も復活する事ができる。
更には犯罪奴隷で魔獣の対応をさせる事ができる上に、錬金術師に生活に便利な道具を作成させることもできる。
それも、最低限の衣食住さえ保証すれば良い立場の者を使えるのだから、問題ないのではないかと思えている。
税に関しては町民から聴取はするが、その上の立場の者がいなくなる関係上、町の為に全てを使う事ができる。
「悪くない……か?」
実際には多種多様な障害、例えば今後他国となるミツバ王国や元領主であるリーシル公爵が再び領有権を主張し始める可能性もある。
法的には理不尽な要求ではあるが、力がモノを言う部分が大きいので理不尽な税を吹っ掛けられる可能性もあるのだ。
ユベルは国王の事は良く知らないがリーシル公爵の事はある程度把握しており、復興させた後に領有権を強硬に主張してくる可能性はあり得る……いや、確実にしてくるだろうと思っていた。
とすれば納税を拒否して全面戦争か、軍門に下って税を支払うかの二択しかない。
「徐々に復興しつつ、戦力を整えるのが妥当か?」
「ちょっと、ユベルさん。大丈夫ですか?」
思わず漏れた本音に、王都にいる職員が心配そうな声を出す。
「ん?あぁ、申し訳ない。ま、この町が浮いてしまった事はわかった。だがこんな街でも俺の生まれ故郷だからな。何とか復興できるように活動するさ」
こうして当たり障りない事を伝えて通信を切るユベルは、確実に起こるであろう戦闘の事を心配する前に、先ずは復興!と頭を切り替えて出口に向かって振り返る。
「うぉ!あっ、その……シズルさん、トリシアさんも。聞いていました?」
その視線の先には、少し申し訳なさそうな表情のシズルとトリシアがいた。
「はい。申し訳ありませんが、全部聞こえてしまいました」
「かぁ~、これは俺の失態ですね。あ、気に病まないでください。お二人をお呼びしたのは俺ですから」
「ですが、随分と大きな話になっていましたね。もし良ければ、できる範囲でお力になりますよ?」
正直地方の町のギルド長であるユベルには何も伝手がないのでシズルの申し出は喉から手が出る程ありがたいものだったのだが、これ以上世話になって良いのかと言う葛藤があるのもまた事実。
「う、それは非常にありがたいですが……今回の件でも大した報酬を渡せていないのに、攫われた人まで全員無傷で連れ帰って頂いた上にそこまでして頂くと……」
「そこまで思いつめなくても良いじゃないですか。気楽にいきましょうよ?僕達はこの世界を楽しく旅行、実は新婚旅行中で旅をしている最中ですから、貴重な体験はこちらこそ願ってもいない事ですから!」
「流石は静流様です!」
どんな事でもシズルを肯定するトリシアはいつも通りとして、ユベルにとっては故郷を復興するためには渡りに船ともいえるこの申し出をありがたく受ける事にした。
「申し訳ないです。そんな楽しい旅行中なのに散々手助けをして頂いた上に、更なる助力を頂けるなんて……」
「これも楽しい経験ですよ、ユベルさん。で、早速何をしましょうか?僕としては、やっぱり生活基盤と町の復興を同時に行うには、どう考えても湖の復活ですよね?修行も兼ねて、僕とトリシアさんとシバで水魔法を使ってみても良いですか?」
前町長であるロロチカを始めとした一行は湖の対策を一切何もしてこなかったのだが、故郷を愛しているユベル達は違う。
自らの業務に支障のない範囲で水魔法を行使して何とか湖が干からびる事を防ごうとしていたのだが、どれほど魔法を行使しようが広大な湖の水を取り戻す事は出来なかった。
最後の方は魔法を行使しても目に見えて水が減少しているほどであったために、シズル達が見た目通りの白色の実力ではないとしても、その経験から効果はないだろうと判断していた。




