(15)首輪
この場でしっかりと正座している盗賊崩れの人達は、僕の一言でこの後の運命が決まると思っているらしく、右手にしがみついているトリシアさんの笑顔には一切目もくれずに僕の方だけに全ての視線を向けているよ。
そう言えば、トリシアさんが視界に入っているのに一切目を向けない異性がいる状況って初めてじゃないかな?
流石に自分の命の方が重要みたいだよね。
「それでは、僕の希望をお伝えしますね。生活に必須の水、これは今迄ギルドの皆さんがさせられていたように、魔術師が結構いそうなので、その人達に常に出していただきます。他の戦士の方々は、破壊されてしまった建屋や道路、壁の復興、もちろん食料調達も含まれます。鑑定士の方もいましたね。その方も同じように復興に従事して頂きたいと思っていました」
「なるほど。確かに今の状態では普段の生活も儘なりませんから。貴重な労働力を始末してしまうのももったいないですね。わかりました。シズル様のありがたい提言を受けさせて頂きます。おい、持ってこい!」
部下の人なのかな?何かを持ってこさせるように伝えると、その人はギルドの方に走って行っちゃったよ。
結構距離があるから、少し時間ができるよね。
この世界での知識が不足している僕は、今後の為にも今持って来させている何かについても聞いておこうかな。
「えっと、ユベルさんは何を持ってこさせたのですか?」
「え?当然犯罪奴隷用の首輪ですよ、シズルさん」
何を当然の事をとばかりに返されてしまったけれど、そう言った知識がないのできょとんとしてしまった僕の表情を見て、ユベルさんは少し詳しく説明してくれたよ。
「不思議な方ですね、シズルさんは。まぁ、それだけ正義感と優しさにあふれ、実力もあれば犯罪奴隷と接する事もないでしょうから、知識がないのでしょう。実はギルドにのみ行使が許されている犯罪者対策がありまして、一度落ちれば二度と戻れない立場になるのです」
説明は嬉しいのですが、そこまで無条件に褒められると凄く恥ずかしいです……って、トリシアさんは笑顔で頷くのをやめてください!僕はそれほど立派な人間じゃないですから!
内心悶えているのだけれど、ユベルさんの説明はまだ続いているよ。
「公正な機関であるギルドであれば、誰がどう見ても凶悪な罪を犯したと認定できる者に関してのみ犯罪奴隷にする事ができます。この確実な罪と言うのを証明するのが難しいので、大陸中でも犯罪奴隷は極端に少ないのが現状です」
冤罪で二度と立場が戻れない犯罪奴隷を作ってしまうのを防ぐ必要があるのだから、厳しい条件があるのは当然だよね。
「ですが、今回は我々自身が証人になり得る重大犯罪です。したがって犯罪奴隷と確実に認定できます。一度犯罪奴隷になると、今持って来させている首輪をつけられます。もちろん二度と外れませんが、強制的に外そうとすれば爆発しますし、他人を傷つけたり窃盗等の罪を犯したりした際も遠隔操作で爆発できるように作られています。最後に、与えられた仕事を放棄しても同じですが、遠隔操作の判断は奴隷認定をしたギルド長に委ねられています」
「えっと、もし……もし、ですよ?その方達が一方的に攻撃されても、反撃できないと言う事ですか?」
「はい。それが犯罪奴隷ですから。それだけに、犯罪奴隷を作ると言う事は慎重にせざるを得ず、ギルド本部に使用した首輪の数を含めた詳細な説明が必要になります」
詳しい説明はありがたかったのだけれど、内容は本当に慎重な対策がなされている……と言っても僕にとっては正直ちょっと重かったよ。
「静流様、気に病む事はありませんよ。普通に仕事をすれば良いだけなのですから。今迄彼らが犯した罪を考えれば、温情に溢れている結果だと思います」
トリシアさんが僕の心の落ち込みを察知して、優しくフォローしてくれているよ。
確かにトリシアさんが言う通り、復興をきちんとする仕事をしていれば問題ない……のかな?
この先町の人が戻ってきた時に、恨みから少し攻撃される事はあるのだろうけれど、貴重な労働力を失うような事まではユベルさん達がさせないはずだし、罰としては甘い方なのかな?と思えるようになったよ。
ありがとう、トリシアさん。
「お待たせしました!」
そこに、薄黒い首輪を抱えた職員が戻ってきてユベルさんに渡しているよ。
「使用用途と個数、本部に送信したか?」
「はい。使用承認も得ています。彼らの蛮行を報告できていた事が功を奏しました。無事捕縛できた事に驚いていたようですが、復興支援についてはあいまいな返事のままです」
この話を聞く限り、ギルド本部としてはこの町に水がない以上、復興する事はないと考えているのだろうね。
「頭の固い連中が言いそうな事だ。まぁ良い。こいつ等に今迄俺達がさせられていた以上に水を出して貰ってから、ゆっくりと復興しよう」
盗賊崩れの人達は全てを諦めたようで、抵抗するそぶりを一切見せずに首輪を受け入れていたよ。
抵抗すれば目の前のサイクロプスに攻撃されると思っているはずだから、この場で命を散らせるよりも普通に……か、どうかはわからないけれど、働いて命を繋ぐ方が良いと考えるのは当然だよね。
「これで完了だ。お前等、それぞれのジョブに分かれて集まれ」
ユベルさんの指示で、互いのジョブを知っている盗賊崩れは必死で移動しようとしているのだけれど、足が痺れて普通に動けないらしく、その姿がおかしくなっちゃったよ。




