(12)ギルド
「気配は掴んでいましたが、きっとこの方達はギルドの職員で色々と有能だと判断されたので、逃げられないようにしたのだと思います、静流様」
確かに言われてみれば、何となくギルド職員に見えなくもない……かな?
「シズルさん、トリシアさんの言う通りだと思います。私は冒険者ではないのでギルドに来る事はないのですが、数人見知った顔があります。彼らはギルド職員だったので」
とりあえずは、そこに集まって不思議そうに僕達を見ている人達はギルド職員だと言う事はわかったけれど、他のギルドに助けを求めたのかどうかが気になるよね。
「おい、ユベル。ちょっと来てくれ!もう盗賊達は無害だ。ここにいるシズルさんとトリシアさんがサイクロプスさえも抑えてくれたからな!」
ボーっとこっちを見ているギルド職員の顔見知りの一人に声をかけてくれたポラムさん。
その声に何となく反応して、椅子から立ち上がってこっちに来てくれている……ユベルさん?
「いつ帰ってきたんだ、こんな地獄に……ポラム。奥さんと娘はどうした?安全な場所に居るのか?」
「まぁ座れ、ユベル。さっきも言ったが、もうこの町は安全だ。直ぐには信用できないかもしれないが、事実だ。それよりも、幾つか確認させてくれ」
「夢を持たせてくれるのはありがたいが、現実が厳しい事は知っているさ。で、知りたい事はなんだ?」
この人はポラムさんの言う事を信じる事ができない状態に見えるよね。
まぁ、圧倒的な戦力を目撃していたら、そして水が無くなって生活基盤が失われていたら、こんな気持ちになってしまうのも仕方がないのかな。
「あの盗賊崩れに対して、他のギルドに応援は出したのか?」
「……一度は出したが、住民が少なくなっている町、衰退するのが目に見えている町の言う事を素直に信じる事ができないらしくてな。渋られて継続して説明する事にしていた時に見つかって、一人見せしめにサイクロプスに食われた。あんな物を見させられて、それ以上歯向かう気なんて起きるわけがないだろう!」
相当切羽詰まっているユベルさんは、感情を爆発させて涙ながらに訴えているよ。
確かに自分達の言い分を一切聞いてくれない味方、そして必死でこの状況を打開しようと動いている同僚が死亡する様子を見させられては、無気力になってしまうのは責められないよね。
「……そうか、すまない。でも、さっきも言ったが、安心してくれ。盗賊崩れの連中は全員抑えたし、サイクロプスもここにいるシズルさんが完全に制御できている。まぁ、現実を見てもらった方が良いと思うが、実は娘のハナと妻のエリナはサイクロプスに守ってもらっている。ハナなんかは、さんざん肩車をして遊んでもらっていたぞ」
「バカを言うな!あんな凶暴な魔獣を、こんな甘っちょろそうな奴が制御できるわけがないだろうが!」
うんうん。わかるよ。
確かに僕の見た目はごつくもないし、甘っちょろそうに見えるよね。
だからトリシアさん、シバ、殺気は抑えて。
この人は本当に辛い思いをして、普段以上に心がすり減っているのだから……
シバは僕の感情をダイレクトに受け取る事ができるし、トリシアさんは僕の視線・表情から思っている事を完璧に把握してくれるので、二人の殺気はすぐに収まったので安心したよ……と思ったけれど、今度はポラムさんが怒り始めちゃったよ。
「お前、現実を見ないで大恩人のシズルさんに何を言いやが……」
「えっと、ポラムさん!大丈夫ですから。今のユベルさんのお話を聞いてしまっては、疑うのも仕方がありません。なので、少し落ち着かれてからその目で確認して頂ければ良いと思います。もちろんこの場にいらっしゃるギルド職員の方々全員に。じゃあ、トリシアさん、お願いできますか?」
「はい。お任せください、静流様」
心が小さい僕はトリシアさんの美貌とその見ほれる笑顔に異性の視線が固定されるのが嫌だけれど、今回だけ……本当に今回だけは目をつぶるよ。
この笑顔で恐怖が薄れて、今の現実を素直に受け入れてもらえる可能性が高くなるからね。
トリシアさんは僕の意図をしっかりと把握してくれているので、明らかに食事をしっかりとしていないこの場の皆さんの為に食料を収納袋から机の上に次々と出してくれたよ。
この人達の中に水魔法を使える人がいるようで、水分だけは十分足りているようだけれど、少ない食料では限界があるよね。
盗賊崩れは生かさず殺さずの範囲で生活させていたらしいので、この部分も罰としてカウントしておこう。
「皆さん、よろしければお食事をなさってください。出来立てで美味しいですよ。さぁ、遠慮なさらずに、どうぞ」
トリシアさんの甘~い声に、光に群がる虫のように無意識下で食事の置かれている机に移動し、機械のように一口口に入れる人達……は、その後はお決まりのようにものすごい勢いで食事を食べ始めてくれたよ。
中には泣きながら食べている人もいて、あの盗賊崩れの罪深さを改めて思い知ったんだ。
ポラムさん一家の他にも逃げ出して苦しい状態にいる人もいるはずだし、残されているギルド職員の方達もこの状態。
う~ん、本当にどうしようかな?
正直この時僕は、僕達は、すっかり水神様の事を忘れ去っていたよ。




