(8)湖
この場所周辺では得る物が何もないのか、盗賊崩れの気配が一切ないので幌の中の三人とシバにも出てきてもらおう。
「やっぱり枯れたまま」
思わず口にしたポラムさんの言葉を聞いて、トリシアさんは僕だけに聞こえるように説明してくれたよ。
「湖となり得る場所はここだけしかありませんので来てみましたが、どうやら当たっていたようです、静流様」
トリシアさんの言葉を肯定するように、エリナさんも軽く事情を説明してくれたよ。
ハナちゃんはシバと一緒に遊んでいるから、暗い話を聞かせる事がないから安心だね。
「私も両親、両親もその両親に聞いたようですが、昔は綺麗な水が溢れんばかりに溜まっていたようで、魚も沢山採れたそうです。それがこんなになってしまって、悲しいですね。私が子供の時には少しだけ水が残っていたのですが」
エリナさんが言っていた湖の姿を想像する事も出来ない程に、地面には沢山のヒビが続いている広大な土地が広がっているだけ。
湖ではなく大きな凹みのようになっているだけなので、とっても悲しいよね。
その巨大な凹みから畑や各家庭に続いている水路のような物が見えるけれど、もちろんそこも干上がっているよ。
この町に残っている町民達や盗賊崩れの者達は、僕達と同じように誰かが水魔法を行使する事で水を得ていると思うけれど……農作物に対応できるほどの量を出せる練度の人はいないようで、このままいけば盗賊崩れもいなくなってくれる……のかな?
「静流様!」
「……どこに向かいましょうか?」
おそらく門番が伝えたのだろうか、この町中にバラバラに散っていた盗賊崩れが集まって周囲からこっちに向かってきている気配だね。
「いちいち隠れたりするのは面倒ですので、制圧するのは如何でしょうか?」
如何でしょうか?って、美しい笑顔の女性が言うような言葉じゃないとは思うけれど、確かに言っている事は正論だよね?
「わかりました、トリシアさん。こっちに来ている人達を制圧して、復興に向けてしっかり働いて頂きましょう!ですが、できれば無駄な戦闘は避けたいので、出て行っていただく方が良いとは思いますが」
人手として活用する事はできるけれども、実際僕とトリシアさんとシバがいれば十分と言えば十分なので、出て行ってもらった方が平和な気がする……かな?
最後の僕の発言で、盗賊崩れがこちらに来ていると言う事を理解したポラムさん達三人は少々怯えてしまっているので、荷台に入ってもらう事にしたよ。
「よっと、ハナちゃん。安心していてね。直ぐに終わるから、三人でおやつでも食べていてください」
トリシアさんから手渡されている収納袋と共に荷台にハナちゃんを持ち上げて乗せて、盗賊崩れの到着を待つ僕とトリシアさんとシバ。
「おいおい、聞いていた以上の上玉じゃねーかよ?」
「俺もこれ程の女は見た事がねーぞ?」
「で、あのヒョロッとしたのが連れだ?何のギャグだ?」
「今回は思った以上に楽しめそうだぜ」
予想通りにあちらこちらでトリシアさんを褒めている声と、僕を貶している声が聞こえて来たよ。
この場にはあの門番の男もいて、相変わらず虫唾が走りそうな笑顔を向けているよ。
うん、やっぱりあの人は悪い人だ!って、盗賊崩れだから当たり前だよね。
でも、一応人相手に戦闘はしたくないので声だけはかけておこうかな?
「あの~、この町には何も価値のありそうな物はなさそうですよね?水も魔法で賄っているのでしょうが、疲れると思うのですよ。もうこの町を去って頂いた方が良いと思うのですが?」
「「「「「ギャハハハハハ!!!」」」」」
僕の真剣な提案に大笑いする野党崩れの者達に、流石の僕も少しだけムッとしちゃったよ。
「おいおい、笑わせんな。確かに聞いていた通りお前はおもしれーが、余計なお世話だ。水は、この町にいる町民共に出させているから俺達は一切疲れねーよ。それにな?この立派な防壁に囲われた町。俺達の拠点に相応しいじゃねーか。出ていくなんざ、頭の足りねーバカのする事よ!」
「そうそう。だが、貴重なアドバイスをしてくれた礼をしなくちゃならねーよな。おい、そこの女、ちょっと来い!俺達がその男のアドバイスの対価を支払ってやるよ!」
「「「ひゅー」」」
勝手に盛り上がっている盗賊崩れ達の言葉に、流石の僕も抑えきれないよね。
だって、僕の可愛くって大切な妻をコケにしているんだよ?
これは無駄な戦闘を避けたいとか言っていられないよね!夫として!!
「は~、折角怪我をしないように気を使ってあげたのに、仕方がありませんね」
僕の雰囲気が変わったのを感じたのか、笑みを消して厳しい視線を向けてくる盗賊崩れの人達だけれど、強くなったおかげなのかちっとも怖くないよ。




