(4)移動
移動速度が一気に落ちてしまったので、今までとは違って日のあるうちに進める距離も相当短くなってしまっている僕達。
急ぐ旅でもないのでゆっくりと景色を楽しめるし、トリシアさんと話したりシバと軽く遊んだりしながら移動するのも良いもので……修行としては、時折気配を感じている魔獣や獣を投石で始末したり、荷台を引きながら収納魔法のイメージをしたりする事で行えるから、速い速度で移動する旅とは違った楽しみもあるよね?
そう言えば、日本でも態々スピードの出ないバイクに乗って旅をするのが楽しいと言っている人がいたけれど、こう言った事なのかもしれない!
「今日はこの辺りでどうでしょうか、静流様?」
多分、今までの僕達ならば宿がある町に到着するまで少々無理をしても移動していたと思うけれど、今は速度が出せないから野営になるよね……
って、野営!?初めての野営!!
となると……あの巨大な桶の出番になるのかな?
トリシアさんが絶対に買うと意気込んでいた、二人で入れる簡易風呂の桶……
僕としては第三者がいない状態での使用を考えていたから、まさか他の人、いくら夫婦とは言え他の人や子供がいる状態で使うのは……相当勇気がいると言いますか、何と言いますか……
「丁度目覚められたようですね」
そんな葛藤をしている僕に、引いている荷台の様子を教えてくれるトリシアさん。
僕には細かい気配を掴む事はまだできないので、トリシアさんは三人が眠りから覚めた事を掴んだ事を教えてくれた……と言うよりも、覚醒し始めている事を察知して荷台を止めるように誘導してくれたような気がするよね。
さすがは僕の奥さん!目配り気配りが凄いよね。
僕も夫として、尊敬してもらえるように色々と頑張らないと!!
「「あ、あの……おはようございます」」
「あっ?お兄ちゃんとお姉ちゃんとワンちゃん!一緒にいてくれるんだ!」
荷台の幌から顔を出す三人の家族。
両親は僕達がいる事にホッとした表情を見せて、子供は体力が戻ってきたのか、少しはしゃいでいるね。
「おはようございます。じゃあ食事にしましょう。降りて頂けますか?って、ホイッ!」
子供だけは自分で降りられないだろうから、軽く抱えて下ろしてあげるね。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
それにしてもお兄ちゃん……か。
僕は一人っ子だったから上も下もいないけれど、妹も良いよね。
「皆様、こちらにどうぞ!」
相変わらず僕の思考があちこちに行っている間にトリシアさんは食事の準備を整えてくれていたようで、綺麗に切り取られた椅子として使用できる丸太と、種類の豊富な料理を出してくれているよ。
よく考えれば火を使った形跡がないのに温かい飲み物とか、熱々の焼肉があるのはおかしいけれど、もうそんな細かい事は良いよね?
トリシアさんであればその位は理解した上で準備してくれているだろうし、収納魔法について聞かれてしまったら、しらばっくれれば、しつこく聞いてくることはないだろうしね。
「うわぁ~、凄いお食事!お兄ちゃん、食べても良いの?」
「もちろんですよ。さ、冷めないうちに食べてください!皆さんも一緒に食べましょう」
二回目にもなると飢えている状態ではない事や緊張も解れてきた事もあって、世間話をしながら食事を楽しむ事ができたよ。
「そうなのですか。お二人はあのダンジョンの魔獣が地上に湧き出ている町から来られたのですか」
「あの町は有名ですね。危険度が高くて……でも、一攫千金を狙えると私達の住んでいた町の冒険者も言っていましたよ」
「今はその状態は改善されたみたいですよ。実際その変化を祝う祭りを体験してきましたから」
「そうですね。あのお祭りは楽しかったですね、静流様」
子供は、大人の……と言っても僕も言う程大人じゃないけれど、話についてこられないようでシバと一緒に遊んでいるね。
シバがいれば多少目の届かないところに行っても安心だから、助かるね。
「私達の町もそのような大きな変化があれば嬉しいのですが……なぜそのような事が起こったか、原因はあるのでしょうか?」
まさか地神を制約から解放したとは言えないよね。
「ごめんなさい、わからないです」
「そのお話、とても羨ましいです。私達もその幸運にあやかりたいですよね。奇跡が起こってあの湖に水が戻ってこないかしら?ねぇ、あなた」
「そうなれば良いけれど、難しいだろうな」
少し悲しそうになってしまったので、慌てて話題をそらす事にしたよ!
世間話も結構疲れるものだったんだね。




