(13)祭りが終わって シズル視点
「は~、とっても美味しかったですけれど、もうお腹いっぱいです。今日は色々ありましたけれど、本当に楽しかったですね?静流様」
「はい。皆さんが本当に良くしてくださって、これほど楽しく過ごせたのがとっても嬉しかったです。ね?シバ」
「ワンワン」
いつもの通りに僕の腕にしがみついて微笑んでいるトリシアさんと、足元付近を、尻尾を振りながらポテポテ歩いてついてきてくれるシバ。
一日中祭りを楽しんで、夜も更けて来たので宿に戻っている僕達。
他の人達はまだ祭りを満喫していて、きっと夜通し騒ぐのだろうな……と思っているけれど、それ程土壌改善によって危険が去って農地としても有用だとわかった事が嬉しかったらしく、まぁ、気持ちはわかるよね。
「お?帰ったかい、英雄さん。あんた達、相当な量の肉を納品したらしいじゃないか。店の連中が全員喜んでいるよ。って事で、今日の宿泊料は頂けないよ!ホラ、行った行った!」
今日の活動は終わりだ……と思ったここでも優しさを投げられて、本当に気の良い人達に嬉しくなったよ。
特にこの女将は、僕達をつけ狙っていた冒険者らしき人達を追い払ってくれたしね。
ここで断ったら押し問答になりそうだから、今日は素直に受けとろう。
「ありがとうございます。そこまで立派な事をしたつもりはないのですが、遠慮なく受け取らせていただきますね」
「私からも、御礼申し上げます!」
トリシアさんの見惚れる表情と洗練された動きに流石の女将も視線が固定されてしまっているけれど、女性からの視線だから嫌な気持ちにはならなかったよ。
……って、僕って器が小さいかな?
そのまま部屋に行っていつもの通りにお風呂に入って……
「トリシアさん。あまりこの町に居続けると旅に出辛くなりますね。新婚旅行もありますし、期限は決まってないとは言え例のお願いの事もありますし」
「実は私も同じ事を考えていました、静流様。本当に良い人ばかりで、改めて人族も素晴らしいと思う事が出来ました」
あまりにも居心地が良いので定住したくなってしまったけれど、僕達は旅をしなくてはならないから……気持ちが揺らぐ前に出立した方が良いのかな?
「一応、ギルドと女将、今日の騎士の皆さんには挨拶してから出ましょうか?」
「そうですね。気が向けばまた来れば良いわけですし、何時でも会う事は出来ますよ。楽しく行きましょう、静流様」
優しく僕を包んでくれているトリシアさん。
自分ではすぐに気が付く事が出来なかったけれど、僕はいつの間にか涙を流していたみたい。
情けないな、僕。
でも、家族を除いてあっちの世界でここまで優しくしてもらった経験がないから、優しさに対して防御力が極端に低いから仕方がないよね。
トリシアさん、ありがとう!シバも……ね。
いつの間にか僕は寝てしまっていたようで、気が付けば布団がきれいにかけられて、横にはいつもの通りトリシアさん、布団の上にはシバがいるよ。
起こさないようにそっとベッドから出て窓の外を見ると、所々地面に寝ている人が見えるし、まだ飲んだり食べたりしている人が見えたので、まだ祭りは続くのかな?
「皆凄いよね。本当に楽しかったけれど、今日にでもこの町を出ようと思っているんだ、シバ」
シバを起こさずにベッドから出る事は出来なかったので、シバを優しく抱え上げて窓から外を見られるようにしてあげる。
シバは昨日の僕を見ているので、慰めてくれているのか“じたばた”した後に僕の方を向いて、顔をペロペロ舐めてくれたよ。
「フフ、ありがとう、シバ。もう大丈夫。僕にはトリシアさんとシバがいるから!」
「ありがとうございます、静流様。私も同じ気持ちです」
背後から優しく抱きしめられてしまった……やっぱりトリシアさんも起こさずにベッドから出るのは無理だったみたいだよ。
そう言えばトリシアさんは、寝なくても問題ないと言って膝枕をしてくれた時もあったからね。
「おはようございます、トリシアさん。荷物……は、いつもお世話になっています。僕も早く収納魔法を使えるようになりたいですね」
僕達の荷物はどれほど量が多くてもトリシアさんが魔法で収納してくれているので、動きも楽だし何かが足りないと不安になる事もないので助かっているけれど、今の所、僕は収納魔法を習得できていないので、全部をトリシアさん任せにしてしまっているのが心苦しいよ。
「いいえ、頼っていただけて嬉しいです。ですが静流様?今迄の情報では収納魔法は非常に希少らしく、やはり習得は容易ではないようです。焦らずに行きましょう!」
ギルドに依頼の品を納品する時、町に入る前に突然収納魔法から解体された肉を出して収納袋に詰めていたからどうしたのか……と思っていたけれど、そう言う事でしたか!
あの時は収納魔法の練習中で、気にする余裕はなかったけれど……謎が解けましたよ!




