(12)イワイ達の対応(第三者視点)
「だ~か~ら~!何度も言っているだろうが!俺はあの男の先生、恩師なんだよ!教え子が道を踏み外したのを黙って見ているなんて、俺にはできない。真っ当な道に戻れるように指導してやっただけだ!」
「そうだぞ、イワイの言う通りだ。別に俺達は喧嘩を売ったわけじゃない。逆に聞くが、騎士として無実の冒険者を突然連行し、どう見ても犯罪に手を染めている男を見逃すのか?それがこの町の治安を担っている騎士の矜持か?」
騎士の詰所に強制的に連行された岩井と仲間の冒険者である銀色の男は、自分達の正当性を信じて疑っていない。
「一つ聞くが、犯罪やら道を踏み外すだの、具体的に説明してもらおうか?」
あきれている騎士は有り得ないと確信しているのだが、万が一にも岩井達が言っている事が事実である可能性もあった時の為に、状況を説明するように要求する。
とは言えあの場で騒いでいた言葉を耳にしているので、同じ説明であれば全てを聞く価値はないと思っており、頭を冷やさせるために一晩檻の中にいてもらおうと考えている。
この場にいる騎士達は、この町に住む他の男と同様にトリシアの美貌にやられた経験があり、同時に非常に仲の良いシズルに嫉妬した過去を持っている。
つまり、二人が異常に仲が良く、入る隙間が全く無い事を誰しもが知っているのだ。
あまりにも仲の良い熱々ぶりを所かまわずまき散らしているので、確かにトリシアの美貌に相変わらず視線は持っていかれてしまうが、自分に視線を向けてくれると言う期待は完全に無くなっていた。
それほどの二人に、あの時イワイ達が騒いでいた行動……トリシアを他の男に差し出して金銭を得るなど絶対にないと言い切れる自信があった。
誰がどう見てもシズルはトリシアを本当に大切にしているし、トリシアはシズルにメロメロだからだ。
その事情を知らない二人は、わが意を得たり!とばかりにあの時と同じような事を誇張して話し始める。
結局二人の話の内容は、シズル程度ではどのような魔獣や獣でも始末できるわけもなく、同じレベルにいるトリシアも同じ。
その結果肉を納品する方法は限られており、トリシアの美貌を利用して金銭を入手し、どこかの町で肉を購入して納品したと言う事を口々に喚くだけだった。
黙って聞いている騎士達に自らの主張が受け入れられていると勘違いした二人は、勢いが乗ったのか、自らの欲望も話してしまう。
「……だから、あのような出来損ないの教え子にトリシアは任せられない。登録後昇格速度が最速と言われているこの俺イワイが、潜在能力を開花させて見せる。いや、させる!」
「イワイの言う通りだな。イワイは魔法系、俺は武器系を教える事ができるから、俺達のパーティーに入れば将来的には金色のカードを手に入れる事も夢物語ではないと思う。丁度良い!あの男を捕縛するついでに、トリシアを俺達の所に連れてきてくれ。その足でパーティー登録をすれば安全だ」
聞いている騎士や周囲を固めている騎士達の視線が厳しくなっているのだが、言い切ってやったとばかりに胸を張っている二人。
「……すまんが、何が安全なのか良くわからないな。それに、自信満々に言っているその悪行、トリシアを売ったと言う証拠はどこにある?あの二人が納品した肉は新鮮な肉だったぞ?となれば、その鮮度から隣町で購入して納品する選択肢は有り得ないが?」
この騎士の底冷えするような声を聞いて、初めて自分達の言葉を受け入れていない事に気が付いた二人。
「実はこの町、ダンジョンから湧き出た魔獣が地上で活動していたのだが、その原因となっていた土壌が突然改善されて危険が一気に無くなった。そのお祝いを、今日町を挙げて全員でしているのだが、その手助けをしてくれている二人をそこまでこき下ろされてしまうと、いくら騎士と言う立場とは言え非常に面白くないな」
更に明確に二人を否定し始めたために弁明を始めようとするのだが、騎士の話は止まらない。
「で、納品された肉だったな。さっきも言ったが、鮮度からこの町で肉を購入する以外には不可能だ。ギルドの依頼受注日から納品された日数を考えると、この町の誰かにトリシアを売って、その金でこの町で肉を買う以外には不可能。わかるか?町中が長く悩まされてきた土壌が改善されて、その祝を行う為に力になってくれた人を……欲望のままに購入する人物がこの町にいる……と、そう言いたいのか?」
「い……いや、そんな事は全く思っていなくて」
旗色が非常に悪くなってイワイはどもり始めるが、冒険者の男はこの世界で生活をしていた経験から、一つの可能性を提示する。
「そ、それはそうかもしれないが、収納魔法であれば中身の劣化はないはずだ。例えば、卑劣な行いを過去にしてその金で得た肉を保管。そして今回納品して町で英雄ともてはやされたと言う可能性はあるはずだ」
「は~、話にならんな。そんな事があってたまるか!この周辺でしか取れない獣や魔獣の肉が多数納品されているんだぞ!お前達の浅はかな行動は、冒険者全体の信頼を大きく損なうものだ。そもそも、あれほど大量の肉を収納できる魔法を使える者は見た事がない!こちらとしても看過できる一線を大きく超えたと判断し、後ほどギルドに正式に抗議しておこう。連れて行け!」
完全に全てを論破されてしまったうえ、ギルドに報告となれば降格もあり得るので、力なく騎士に檻の中に放り込まれる。
「くっ、なぜ俺がこのような仕打ちを!高岡のくせに!」
岩井は未だ現状が飲み込めずに恨みを口にしているが、もう一人の男は苦労して銀色のカードを得るまでになっていた所、降格の可能性が高い事に絶望を感じていた。
一旦降格されてしまうと再昇格は通常昇格できる実績の倍は必要になるので、相当な時間が必要になってしまう事を知っていたからだ。
有り得ない程の回復魔法を行使できる岩井と共に行動できる事で更に上を目指せると心躍らせていたのだが、思わぬ落とし穴に落ちた冒険者だ。




