(6)バラドス開放
「シバ、凄いですね」
背中から甘い声が聞こえてきたよ。
「トリシアさん、急に動いちゃってごめんなさい。大丈夫ですか?」
「はい。ありがとうございました、静流様、私もシバを褒めてあげたいので、下ろしていただいても宜しいでしょうか?」
トリシアさんもシバの今迄の動きには当然気が付いているだろうから、直接褒める為にこうしているんだよね。
本当に女神様みたい……って、何度目かわからないけれど女神様ですね。
直接トリシアさんから褒められつつ撫でられているシバは、とっても嬉しそうで僕も幸せな気分になるよ。
「!!!」
「静流様!シバ!!」
「ウ~!」
一気に近づいて来る強大な気配を察知して、緊迫した状況になってしまい厳戒態勢になる僕達。
まさか、この魔獣の死をきっかけに何かが動き出すような罠が仕掛けられていたのかもしれないと思い、安易に始末してしまった事を後悔する僕だけれど、今後悔している暇はなさそう。
せめて町に被害がないように……あの気の良い女将や少し落ち込み気味な冒険者達を守るべく、少し震える足に力を入れて強大な気配を迎え撃つ為に気合を入れるよ。
ひょっとしたら……まだ十分な力を手に入れていない状態の僕達に急激に近接してきているのは魔神かもしれないとの思いはあるけれど、誰であろうとトリシアさんも必ず守るよ。
僕はそう誓って旅を始めたのだから……頑張ろうね、シバ!
「静流様……大丈夫です」
何か感づいたのか、ひょっとしたら諦めてしまったのか、トリシアさんは警戒態勢を解いてしまったけれど、強大な気配は間もなくこちらに到着しそうなので、大丈夫な訳はないよ!
「トリシアさん、僕とシバが絶対に守ります。ですから安心してください!」
どうしても勝てない場合には逃げてもらうべく、トリシアさんと近接してくる気配との間に半ば強引に割り込むように僕とシバは移動する。
「えっと、静流様……とても嬉しいのですが、そうではなくてですね……これは敵の気配ではありません」
「……え?これほど強大な気配が急接近しているのに、敵ではないのですか?」
トリシアさんを疑うわけではないけれど、まさか僕を庇う為に全てを諦めた?いやいや、とても嘘を言っているようにも見えないし……
悩んでいるうちに、その強大な気配を発している原因が視界に入ってきたよ。
「うぉ~い。すまんかったのう!いや~、もうダメかと思っとったぞい!流石はトリシアが連れている存在じゃの!」
それは……長い髭と髪をたなびかせながら、作り笑いではない本当の笑顔を浮かべた地神バラドス様だった。
僕の目の前でピタッと停止すると、豪快に笑いながら僕の肩をバンバン叩くバラドス様。
あの……結構痛いのですが……とは言えずに、されるがままになっている僕。
「バラドス、その辺りにして下さい。静流様は私の大切な人ですから、貴方にはもったいないですよ」
グイっと僕を抱き寄せて助けてくれたトリシアさんは、少しだけムッとした顔でバラドス様を見ているけれど……喧嘩にならないよね?
バラドス様もトリシア様の行動に少し驚いた顔をしているから、大丈夫だとは思うけれど……
「ハハハハ、愉快愉快!トリシアもそのような表情をするとは思わんかったのう。まるで恋する乙女の様じゃ…ブヘ」
お~いぃ!トリシアさん。
真っ赤な顔をしているのは良いですが、なんで突然バラドス様を殴っちゃうんですかぁ~!
「バ、バラドス様、大丈夫ですか?も~、トリシアさん!突然手を出しちゃいけませんよ?」
「え?あ、はい。申し訳ありません、静流様」
謝るのは僕じゃないと思うけれど……少しだけ納得いっていないと言う表情のトリシアさんも可愛いですね。
思わず抱きしめちゃったけど、嬉しそうにしてご機嫌になったから良いよね?
「ふぉ~、あのトリシアがのう?っと、くわばらくわばら、余計な事を言うと埋められそうじゃから、黙っておこうかの」
実はこのバラドス様はとっても気さくな方なのではないか!と、この短い時間だけでも思えるような存在だよね。
でも、どうして突然豹変……どう見ても制約が解除されたからだろうけれども、タイミング的には、あの魔獣?
僕達を追跡していた魔獣を始末した事位しか思い浮かばないけれども……どうだろう?




