(4)バラドスとの出会い
「おいしいですね、静流様」
カウンターの一番奥にトリシアさん、その隣に何故かシバ、更にその隣に僕が座って食事を頂いているよ。
女将が一番奥にトリシアさんを座らせてくれたのは、他の冒険者達の視線を向け辛くする為だろうと言う事はわかっていますよ。
細やかな気遣いありがとうございます。
「アンタ、本当に綺麗だね。何をどうすりゃそんなになれるんだい?何か秘訣でもあるのかい?」
冒険者の視線は気にならなくなったけれど、女将の視線と口撃が激しくなってきたよ。
「えっと、特に何もしていませんけれど……強いて言えば、静流様に綺麗に見られたいと言う気持ちでしょうか?」
「か~、こりゃ一本取られたね。兄ちゃんはシズルって言うのかい。こんな別嬪さんを捕まえるなんて、大したモンだ。あっちで無駄に落ち込んでいる連中にその技術を教えてやったらどうだい?」
この女将は優しくて気は良いのだけれど無駄に声が大きいので、今の会話もあっちに座って少々どんよりしている冒険者達に聞こえているはずで……
ちょっと居たたまれないかな。
僕だってこれほど幸せになれる少し前はボッチだったし、技術と言われても困っちゃうよ。
でも、とっても話しやすい女将なので、トリシアさんは今の状況を冒険者以外の目線で捉えている女将と言う存在から積極的に聞き出しているよ。
僕はフンフンわかっていますよ!とばかりに相槌を打っているだけ。
その中身を纏めると、他の国の情報ではダンジョン外部に魔獣が進出してくるのは極めて稀で、やっぱりこの場所が例外のよう。
この現象も、長く続けているこの宿の過去の女将の世間話程度の言い伝えによれば、相当昔には起こっていなかったみたい。
ある時を境に突然ダンジョン内部で発生した魔獣が外に出て活動を始めたらしく、今まで他国と共同で調査を行った結果、土壌が改変されてダンジョン内部と近似した環境を作り出している事までは把握できたんだって。
ダンジョン以外の地上で発生した同種族の魔獣であれば普通に地上で活動するけれど、その魔獣達は逆にダンジョン内部に侵入する事はないみたい。
住む環境が異なるので、生活できないと言う事のようだけれど……
結局地上をダンジョンの環境に置き換えるような事をできる存在が人族の中でいるわけもなく、とてつもない高ランクの魔獣による仕業か、はたまた別の超常の存在によるものなのかは意見が分かれているけれど、どちらにしても元に戻す術は今の所見つかっていないと言う結論だと説明してくれたよ。
「でも、心配する必要はないよ。もう長い事こんな状況だから冒険者の質も上がっている。寧ろ素材が多く入って助かると言っている冒険者すらいるくらいだからね」
少々気落ちしているトリシアさんを励ますかのように告げる女将だけれど、言葉通りの状況ではない事は僕達の力であればすぐに把握できてしまう所は悲しいね。
この場にいる冒険者の皆は、どこかしら怪我をしているし……
これは、あまりのんびりしていられないのかな。
結局この状況を作ってしまったのは、制約下におかれているかどうかは別に調査するにしても地神様である事は間違いなさそうだと言う結論を得るだけになったので、一度頭を切り替えて翌朝からすぐに動くことにしたよ。
「おはようございます、静流様」
「おはようございます、トリシアさん、シバ」
「ワン!」
今日は朝からトリシアさんが地神様の気配を強く感じている場所に向かう事にしているので、朝食は歩きながら食べられるサンドイッチを作ってもらうようにお願いしており、女将から受け取って宿を出る。
「彼方です」
トリシアさんを先頭に、僕とシバが道なき道を警戒しながら進んで行くよ。
こんな場所には誰も来ないでしょうと言う、この世界に蜘蛛がいるかはわからないけれど、蜘蛛の巣のような物が張り巡らされている場所や、背丈以上の草が生えている場所を必死で進むと……少し開けたそこの場所には小さな祠があったよ。
その祠の前でトリシアさんは止まると、見た事もない程真剣な表情に変わって何かを呟き始めたよ。
「聞こえていますか?天空神トリシアです。私の呼びかけに応じて顕現してください。地神バラドス」
初めて地神の名前がバラドスと理解できたと思っていると、祠が光った後に、白い立派な髭を蓄えて、長い白髪の優しそうなお爺ちゃんと言うような人……神が出て来たよ。
うん、この方が間違いなく地神バラドス様だよね。
「久しいのう、トリシア。一万年程だろうか?今日は儂に何用じゃろうか?」
あれ?トリシアさんはあの場所に数千年って言っていたけれど、一万年だったの?
僕の素朴な疑問はそのままに、二人の神の話は続くよ。
「お久しぶりですね。今日は貴方の行いを確認させて頂こうと思いまして」
こ、怖いですよ、トリシアさん。
ここで神同士の本気の戦いに巻き込まれたら、僕なんて塵も残りませんよ!




