(3)宿での出来事
相変わらずトリシアさんに見惚れる視線、そして僕に対しての妬みの視線を浴びながらも宿に入って寛ぐ事が出来たよ。
「トリシアさん、えっと、あまりにも僕達視線にさらされるので、今後はフードでも被るのは如何でしょうか?」
「フード……ですか?視界が遮られませんでしょうか?」
「確かにその部分はあるかもしれませんが、あまり大勢の人にトリシアさんが見られるのはうれしくないと言いますか……」
「!?……はい、明日からフードを被ります!」
突然元気になったトリシアさんだけれど、了解してもらえて良かったよ。
って、近いですよ、トリシアさん!
嬉しそうに頬を赤らめてすり寄られてしまうと、僕も……
「静流様、私は今とても幸せです。大切にして頂いている事も実感できますし、本当にこんなに楽しくて幸せな時が過ごせるなんて、少し前までは考えられませんでした」
「僕も同じ気持ちですよ。と言ってもトリシアさんの苦労に比べれば何て事ない程しか苦労していませんけれど、今とても幸せだって、ここだけは断言できます!」
「フフフ、相思相愛ですね。本当に嬉しいです。でも、残念ですがどこにでもお邪魔虫はいるのですね」
ベッドから起きてゆっくりと服を着ながら話をしている僕とトリシアさん。
ギルドで僕達を追ってきていた気配を再び感じたから、揉め事になる前に少し避難でもしようかと準備を始めたよ。
シバがやる気満々の姿勢を見せたけれど、地神様の対処にどれほど時間がかかるかわからないから、ここで揉め事を起こすのは得策じゃないと判断したんだ。
今の僕達の力があれば気配を消して隠れる事もできるし、今いる四階の窓から地上まで怪我無く飛び降りる事もできるしね。
もちろんその時には、トリシアさんは僕が抱えさせて頂きますよ。
ビバ異世界の能力!
どのような選択肢を取ろうかと思案していた所、複数の気配が宿の中に入ってきた事を掴んだので、慎重に様子を探る事にしたよ。
「ふざけんじゃないよ!あんた客商売を舐めてんのかい!!それとも女将であるこの私を舐めてんのかい!」
四階のこの部屋にまでとても良く聞こえてくる大声は、間違いなくこの宿の受付をしてくれた女将。
豪快な人で人情味あふれるイメージがあったけれど、どうやらその通りらしく、明らかに僕達を追ってきた宿泊客ではない冒険者に対して激しく叱責している。
その声に驚いたトリシアさんが、少しびくっとしたのが可愛いです。
一階の受付には食堂もあったはずで、そこに屯している宿泊客の冒険者達は、僕達を追ってきた冒険者に少々殺気を出している気配を感じるよ。
余程後から来た冒険者が嫌われているか、あの女将が慕われているかだよね。
きっと後者かな?
追跡してきた冒険者の声は良く聞こえないけれど女将の声は良く聞こえるので、気配を掴む以上に状況が良くわかるよ。
「何だか知らないが、コソコソ何かを嗅ぎまわる腰抜けに用はないよ。さっさと出て行っておくれ。ここは宿、そして食堂だよ!何があったか知らないが、犯罪者以外の客は私の子供と同じ。守る義務があるのさ!」
「す、すごい女将ですね、静流様。私、感動しています」
「僕もです、トリシアさん。あの啖呵、その内容もすごく嬉しいですよね。どう見ても僕達を庇ってくれていますから」
もし暴れられるような事があれば僕達が対処するしかないと覚悟を決めたけれど……女将の勢いに気圧されたのか、周囲の冒険者の圧に屈したのか、スゴスゴと宿から出ていく気配を感じる事が出来たので、安心したよ。
「もう夜なので、食事をしに行きましょうか?そのついでにお礼を伝えましょう」
「わかりました、静流様。シバ、行きますよ?」
「ワンワン」
一階に行くと、この場にいる冒険者の皆さんは僕達の味方をしてくれた事は知っているけれど、やっぱりトリシアさんに視線が集中してしまうのは、正直あまり気分は良くないよね。
……パンパンパン……
「ホラホラ、あんた達!もてない男が揃って羨ましそうにするんじゃないよ!それじゃあ、さっきの連中とかわりゃーしないよ!シャキッとおし!」
突然手をたたいて注目させ、大声で話す女将。
本当にすごく良い人だよ。
周囲の冒険者達もバツが悪そうに苦笑いして、トリシアさんや僕から視線を外して食事を始めてくれたよ。
「この連中、悪い奴じゃないんだ。アンタは正直同性の私でも見ほれる美貌だからね、思わず見ちまうのは許してあげてくれると助かるよ」
冒険者達のフォローをするばかりか、僕達のせいで少し前に少し揉め事になった事をおくびにも出さない女将さん……尊敬します!




