(1)旅の始まり
……カポーン……
「静流様!思った以上に早く到着する事が出来ましたね」
「そ、そうですよね。シバも疲れていない?」
「ワンワン!」
とある宿泊所の貸し切りのお風呂には僕とトリシアさん、そしてシバがいる。
初日から野宿をする必要がない事は助かったけれど……今の状況は、いつも通りと言わんばかりに、一緒にお風呂に入っているよ。
一緒にお風呂に入るのは毎日の習慣のように思っている節があるトリシアさんだけれど、僕は未だに慣れる事が出来ていないのは内緒。
「ところで静流様。私が地上に顕現する事で他の神々の様子をある程度把握できるようになりました。ここから最も近い位置にいるのは地神、大地を司っている神で、私とは違って遥か昔から存在している神です。今後の活動に対する有用な助言も頂けると思いますので、そちらを目指しても良いですか?」
「はい。もちろんです」
普通に返事をしている僕ですが、半ば強引にトリシアさんの背中を洗わされる事になっているので、平静を装うのに必死だよ。
何とかお風呂タイムを乗り切ったので、今日は疲れたからもう寝ようかな。
食事はおいしかったけれど僕には少し量が多かったので、申し訳ないけれど残してしまったよ。
トリシアさんにびっくりするほど心配されて、同時に無駄に効果のありそうな回復魔法をかけてもらったけれど……単純にお腹がいっぱいになっただけと説明したら少し涙目になりながらも安心してくれたので、あまりの可愛さに抱きしめてしまったよ。
本当に少し前の僕では考えられない行動ができるようになって、自分自身でも驚いているよ。
そうそう、残してしまった食事はシバがおいしそうに全部食べてくれたんだ。
あの小さな体にどうやって……と思わなくもないけれど、そこも含めて日本とは違うと納得するしかないよね。
「では静流様、今日はこちらにどうぞ!」
ベッドの上に座って、笑顔で自分の太ももをポンポン叩いているトリシアさん。
こ、これはボッチの頃に一瞬だけ夢に見た膝枕ではないだろうか?
嬉しいけれど、トリシアさんが疲れないかな?
「その、疲れませんか?」
「ありがとうございます、静流様。私は睡眠せずとも問題ありませので、遠慮なく横になってください!」
満面の笑みでこう言われてしまったので、夢にまで見た膝枕と言う魅惑に勝てるわけもなくお言葉に甘える事にしたよ。
「い、如何でしょうか?」
目を開けると、美しいふくらみの先に少しだけ不安そうな表情をしているトリシアさんの顔が見える。
「け、結構なお手前です」
うっ、あまりの恥ずかしさに良くわからない事を言ってしまったよ。
「!!フフフ、ありがとうございます。ゆっくりお休みください、静流様」
優しく髪を撫でてくれているトリシアさんの手の感触に、瞼が重くなってきたよ。
何となく無意識下で少し横を見ると、もうシバは夢の中にいるみたい。
あまりの気持ちよさと、温かい気持ちで……気が付けば翌朝になっていたよ。
「トリシアさん、おはようございます。あの、本当にありがとうございました。疲れていませんか?」
「おはようございます、静流様。全く疲れておりませんよ。寧ろご褒美を頂けた気分で、とても良い気持ちです!」
パッと見は本当に疲れていなさそうなので、とりあえずは一安心できた僕。
朝食を頂いた後に、トリシアさんが何となく感じている地神様がいると思われる方向に向かって、楽な気持ちで進む事にしたよ。
時折足元からシバが消えるけれど、今の僕ならなぜ消えているかはわかるんだ。
進む先に危険な気配を感じた時に、先行して対処してくれているシバ。
さすがは上限なく成長できる犬狼のシバ!危なそうであれば僕もトリシアさんも直ぐに助けに行くつもりなのだけれど、その必要は一切なさそう。
「流石は静流様の眷属のシバですね」
今は足場の少々悪い道を歩いているけれど、僕も能力が上がったおかげかふらつく事もないし、トリシアさんは言うまでもなく……僕の腕にしがみつくように密着して、相変わらず見惚れる笑顔を浮かべているよ。
その笑顔に見入っていたら、トリシアさんはこんな事を呟いていた。
「フフ、今日は二日目にして初めて桶の出番かもしれませんね」
正直僕は覚悟ができていないので、それだけは……と思わなくもなかったけれど、敢えて聞こえないふりをしてみたよ。
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