(4)召喚者とトリシア
ギルドでトリシアと静流を見た後、何とも言えない気持ちのまま各自が王都の別邸に戻っていた召喚者の四人。
日本にいた頃、ショージとショーコ、ユーヤとヨシエは恋仲であり、一応今もその立場を崩してはいないのだが、異世界独特の文化も含めた劇的な環境変化もあって、今では惰性で付き合っているようなものだ。
そんな状態で視界に入ってしまったトリシアと、さんざん見下していたのに本当に無意識で目を引いてしまう程の雰囲気を出していたシズル。
シズルも毎日冒険者として楽しく活動しているのだが、当然自分の力を上げて将来的にはトリシアとシバを養うんだと言う気概に満ち溢れ、トリシアは惚れた弱みかさりげなく後方から支援を連発し、ポチも大好きな主の為に精いっぱい頑張っている。
その結果が、今まで誰からも感じた事のないあの雰囲気を作り出していたのだが、それもそのはずで、今の静流の力はこの短期間で実質銀色のカード相当にまで上昇している。
実質と言うのは、未だに昇格申請をしていないのでトリシアと共に白色のカードを持っている立場だからだ。
使える術や魔法も日に日に増加しており、このペースでいけば将来的には虹色のカードを所持する事も夢ではない程の実力者になっている……のだが、本人にその立場になりたいと言う気持ちは一切なく、トリシアやシバと楽しく生活するんだと言う思いが一番にあるので、未だカードの更新すらしていない。
今日も楽しく二人と一匹で活動している中で、シズル一行を目にした召喚者四人は別の動きをしている。
「ねぇ、ショーコ。ちょっと悔しいけど、高岡って、ちょ~カッコよくなってなかった?」
「……正直、そう思うわ。なんでかしら?ショージが霞んで見えるのよ」
「でしょ?でも、横にいたちょ~美人に鼻の下伸ばしてたじゃん?始末しちゃう?」
「物騒ね。でも、それも一つの選択肢かしら。って、違うわよ。この世界は日本じゃないのよ?だから、高岡の相手が一人である必要はないじゃない?そうじゃないと、私とヨシエも争う事になるわよ?」
「そっか。確かにあの女を始末して高岡に恨まれるより、三人で迫った方が良いか。やるじゃん?ショーコ」
女性陣二人で勝手な妄想をしている時、同じく人としてレベルの低い男性陣二人も妄想を垂れ流していた。
「ユーヤ、あの女は根暗野郎には相応しくねーよな?俺は正直ビビったよ。流石は異世界。ショーコも目じゃねー程の可憐さ?なんて言うんだ?美しさ?神々しさ?まるで女神様かと思ったぜ」
本当の女神ではあるのだが、比喩表現が偶然的を射ていたユーヤ。
「フッ、確かにそうだ。この俺が思わず見とれてしまう程だ。でもどうする?あのゴミは今の俺達の立場の力を使えばどうとでもなるけれど、その後、普通にあの女がこちらに靡いてくれるとは思えない。そもそも、俺とショージはライバルになるだろう?」
「そこだ!俺としちゃー、そこは互いに飲み込むべき所だと思っている。正直俺もそうだし、当然ユーヤも納得できないとは思うが、俺達二人で手に入れるしかないだろう?」
「フッ、確かに互いを潰し合っては得る物は何もないしな」
「そう言うこった」
男女共に勝手な思い込みで公爵家の力を使って静流とトリシアの調査を始めてしまうのだが、劇的に力を得ている静流やシバ、元から相当な力を持っているトリシアにはその気配を完全に掴まれてしまう。
「静流様、ここの所不快な視線を感じませんか?」
「トリシアさんもですか?やっぱり僕の勘違いじゃなかったのですね」
「ワンワン!」
「フフ、シバもそうだ!って言っていますよ、静流様」
「う~ん、どうしましょうか。どうせ嗅ぎまわっているのはあの四人か岩井先生でしょうし、丁度良いタイミングですから思い切って例の旅に出ましょうか?」
「!!さ、賛成です!!大賛成です静流様!ねぇシバ!!そうと決まれば早速準備を始めましょう。食料、水……あぁ、落ち着いてトリシア!!水は魔法でどうとでもなるでしょう!!」
一人アワアワし始めたトリシアを見て、慌てる姿も可愛いなと思いながら眺めている静流。
このやり取りも魔神討伐の部分以外は隠すつもりは一切ないので、周囲の諜報部隊の人間には全て聞かれていたりする。
諜報部隊側は、この一連の会話から少なくとも自分達の存在の一部が明らかになってしまっていると言う事実を掴むが、今更命令を反故にはできないので調査を継続している。
そんな決死の覚悟は知らんとばかりに、目の前の二人は一匹の犬っぽい獣を従えながらもイチャイチャしつつ、城下町の各種店舗に赴いて買い物を楽しんでいる。
「俺、なんでこんな事をしているんだろう……」
諜報部隊の誰が漏らしたかわからないが、彼らの通常の任務は国家存続に関する事や仕えている公爵家の地位を盤石にするための諜報活動を自らの命を懸けて行う事なので、目の前で桃色のハートマークを振りまきながら買い物をしている人物の監視を行うなど、苦痛以外の何物でもなかったのだ。
その結果、今まで得た情報だけで依頼は達成しただろうと言う自己判断を招き、出国まで監視を続ける者は誰一人としていなかった。
貴族となっている召喚者達は、異世界の人物達の気高い意志を理解できなかったのだ。




