(2)イワイ
「おい、おっさん。早くしろって!」
「……すまん」
どうしてこうなったのか……なぜこの俺がこんなに惨めな思いをしなくてはならないのか。
思い起こせば、俺が無能の生徒達の為にあの場で貴重な願いを一つ使ってしまった事が原因だな。
あいつ等は俺のおかげでこの世界についての知識を、貴重な願いを言う前に予め得る事が出来たのだから、少しは恩を返してもらいたい。
特に……あの場に残されていた高岡はどうでも良いが、他の四人は貴族になっているはずだからな。
もし俺が最初に願いを聞かれなければ、あいつらの誰かが俺と同じ立場になっていたのは間違いなのだから……
「おっさん!早くしろって言ってるだろうが!」
っと、くそ!今は過去を悔んだり願望を抱いていたりする場合じゃない。
目の前で騒いでいるどう見ても年下の少年ともいえる男の右腕に、俺唯一の力と言って良い回復魔法を行使する。
「よっしゃ、おっさんはこれだけはすげーよな」
そう言って、他の仲間が相手取っている魔獣と呼ばれる大きな獣のような物体に襲い掛かる。
これを見ると、改めて俺は日本ではない異世界に飛ばされた事を思い知らされる。
「ふぃ~、今日も何とかなったぜ。おっさん、頼んだ!」
「俺もだ」
「私も!」
要望通りに俺は三人に対して回復魔法を行使して、全ての傷を癒す。
最初にこの力を使った時には、自分でも驚くほどに怪我が一瞬で治っていた。
今では慣れたもので、違和感なくこの魔法を行使する事が出来ている。
「いつ見てもすげーな、おっさん」
「この怪我を治すなら、普通は高価なポーションを使わないとダメよね。そんな物を買うお金があるわけないし、本当に助かるわ」
「確かにな。そもそも回復魔法を使えるようになるには相当な修練が必要だ。それもこのレベルで使えるなんて、どれだけ努力したんだ?」
ちょっと待て。
少し意味を取り間違えたのか?
こいつらの話ぶりから、俺の唯一の武器ともいえる回復魔法、あの場所で不思議な女性から貰ったこの魔法でさえ、修練すれば取得する事ができると聞こえたぞ?
確かに身体強化に関してはそんな事を言っていた気がするが……まさか唯一の回復魔法までとは……そうなると、俺の価値は凄く低いのではないか?
思わず不安になり、自分の首から下げている赤色のカードに視線が行ってしまう。
「ま、なんにせよ今回も無事依頼達成だ。助かったぜ、おっさん」
「本当ね。次もよろしくね?」
「多少ノロマな所はあったけど、回復魔法の効果の高さだけは自信をもって良いと思うぜ?」
年下のくせに偉そうにしやがって……と思わなくもないが、落ち着いてみれば周囲に回復魔法を使える者は僅かしかいなかったはず。
それも、どう見ても俺よりも効果は弱かったので、こいつらの言う通りに俺の力はこの世界である程度有用で、思ったほど落ち込む必要はないのかもしれないな。
「あぁ、任せておけ」
口ではこう言っておいてやるが、もう少しこの世界の状況を理解して、期待通りに俺の回復魔法が相当高い力を有しているのであれば、お前等のような偉そうなガキのお守りは御免被る。
暫くはこいつ等と行動を共にして日銭を稼いでいたが、怪我をするバカの為に毎日使わされる回復魔法の練度が明らかに上がった気がする。
そう言えばあの場所で身体強化も鍛えて手に入れると言っていたのだから、この魔法も意図せず鍛えている事になり、その力が上昇したのか?
そう思いつつも普段通りに活動をしているのだが、依頼を終えて一人でギルドの中で寛いでいると、依頼から戻ってきたのだろう男が必死でポーションを仕入れて飲んでいるので、自分の力を量る意味でも回復をしてやる事にした。
現実的に肉が少々抉れていた所も治す事ができたし、銀色のカードを持つ男からは非常に感謝され、今後共に行動しないかと誘われたほどだ。
ハハハ、悪くないな。
やっぱり俺の力は相当らしい。
いつまでも赤色のカードを持つガキと共に行動するのもバカバカしい。
あんな連中との依頼しか受けられないから未だに俺も赤色のカードだが、この男と共に行動すれば立場は変わるはずで、将来的には虹色のカードを持つ身分になって、貴族になっている生徒達よりも良い生活ができるかもしれないな。




