(7)ヘルナンド公爵
連続投稿はおしまいです。
「ねえちょっと、そこのアンタ!ちょ~お腹空いたんだけど?」
ヘルナンド公爵邸の食堂で、日々貧相になる食事に文句をつけている召喚者であるヨシエと、その言葉に追随しているヘルナンド公爵。
「何故ここまでの状況になっているんだ!さっさと改善しろ!」
怒鳴られている者達は言われるまでも無く必死で作業を行っているのだが……土壌改善の為に他の土地から土壌を持ち込んでもあっという間に同じ状態に戻るし、領内を流れる川も水量が一気に激減した上に水質も悪化する一方で、その原因究明を行っても何もわからなかった。
こうした事から使用人達の統一見解は、夫々を司る神々の怒りを買ってしまった事以外には有り得ないと言う結論に達していた。
今までは給金の関係から散々我慢してきたのだが、彼等にしてみれば原因であるヘルナンド公爵が対策を丸投げした挙句に文句を言って来るのだから、怒りは増すばかり。
そこに、満腹亭の店主であるポフルがヘルナンドに呼ばれたのかノコノコやってくる。
「い、如何致しましたでしょうか?」
「来たか、ポフル。如何もなにも無いだろう?そろそろお前の所の食事を早く持ってこい。領主の館に納められるこの栄誉を、よもや断る事はあるまいな?」
ポフルはついに断れない状況が来てしまったのかと冷や汗をかいており、ヨシエもあの腐った匂いのする食堂の食事など口にしたくはなかったのだが、実際お腹が減っているので余計な注文をつける事が出来ない状況に陥っていた。
「ありがたいお言葉ですが、ヘルナンド様もご存じの通りに食材調達が難しい状態でして……そもそも私の所にも客が来なくなり、食材を手に入れる程の収入が無くなってきているのも事実です」
なりふり構っていられない状況になっているポフルは、プライドも何もかなぐり捨ててありのままを話す。
聞かされているヘルナンドは、領主である自分達でさえ食料に困窮し始めているので、たかだか一食堂の店主であれば事実なのだろうとは理解できるのだが、空腹を我慢できるのとは別の話しだ。
「ならば、お前の所でなくとも別の所から仕入れれば良いだろう。あの忌々しい宿の食事でも買ってこい!」
忌々しい宿とは当然アドビが食事を卸している例の宿であり、帝国アグニから来た騎士が護衛、更には宿を経営した経験のある人材が宿を管理している、それは素晴らしく栄えている宿の事を言っている。
ヘルナンドや護衛の騎士達はそのプライドが邪魔をしてかあの宿を遠目に眺めるだけしか出来ていないので、ただの民であるポフルに対して即行動に移すように命令する。
「し、しかし私だけで行動するのも……資金もありませんし」
汚れ仕事は配下の者達に行わせていたのだが、毒物と言われても納得できるような食事を異常な高額で販売していた一見客を全て奪われて資金が無くなり、金の切れ目が縁の切れ目の典型的な状態になったポフルの為に働く人物は存在していないので、弱気な事を口にする。
実際少々食糧難に陥っているのは事実だが、贅沢をしなければそれほど困る事は無いレベルであり、そこは神々も考慮して制裁を加えているように見える。
この贅沢の部分がミソであり、ヘルナンドやヨシエが我慢で来るわけもないので、普通の民であれば喜んで食べる食事も口にせず喚いている。
「じゃあ、あたしが行くしかないっしょ!チョーうけるけど!」
ここでヨシエが自ら足を運ぶと言い出すのだが、これはあの宿に関連する者の中にシズルがいるらしいと言う情報は持っているのでシズル目的で行く……のでははなく、本当にお腹が空いて我慢が出来なくなったのだ。
最近は神々の情報も多数入ってくるようになっており、その中の一人がシズルと共にいる天空神トリシアである事も知っているヨシエ。
流石に神と直接対決するような事は避けるべきと本能で理解しているので、他の三人の公爵家の者達と同様にシズル達に対して直接的な行動は起こさないようにしていた。
「それであれば、是非ともお供いただけますでしょうか?」
ヨシエの突然の申し出に、公爵家令嬢が共にきてくれるのであればこれ以上ない程の援護になると喜ぶポフルだが、実際は国王から目をつけられて領地に戻され、実質爵位を継げない立ち位置になっているなどとは知る由もない。
二人は護衛の騎士を連れて街道を進むと、自分の領地から離れる程に状態の非常に良い整備された進みやすい街道を移動し、絶景が見える頃にはしっかりと宿も視界に入る。
「チョーうける。何あの人だかり!」
街道でもすれ違う馬車が多くなり、視界の先に見える宿近辺には相当な人がおり、馬車も多数止まっている。
この短い期間で最早大陸中に知れ渡っているのではないかと言う程の観光名所になっているようで、実際宿に泊まれずに植神エリアスが準備した大草原で野宿をする者もおり、当然名物となっているアドビの食事を食べられない者も多数いるのだが、その状態でも素晴らしい景色を楽しむ価値はあると思っている者が大半だ。
「うわっ、すご!チョーうける」
宿の前までは来た事が無かったので、この場所から見える絶景に語彙の少ない金髪ギャルのヨシエでさえ感動してしまい、同行している騎士やポフルも時間を忘れて息をのむ。
大草原に所々野営のテントが見えるのだが、それすらも絶景の一部と勘違いしてしまいそうになっており、感動で動きが止まるも、最も人が密集しているこの場所に居続けられるわけもなく、後続の馬車の御者にたしなめられて少々移動して馬車から降り、騎士をこの場に残して宿に入って行くヨシエとポフル。
中に入ると大きなロビーがあるのだが、やはり人でごった返しており、受付にはいくつもの列が出来ているのを見て顔を顰めていた。
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