(6)アドビの新たな活躍の場
爺と騎士にはわかるべくもない次元の話をされてはいるが、目の前の女性は紛れもない天空神トリシアなので、漠然とその通りになるのだろうと思っている。
「では、シバ?お願いできますか?先ずは一番遠いバラドスと行きたい所ですが、絶対にエリアスは寝ていますから、起こすのに時間が必要です。ファントは私の方で話をしておきますので、この手紙をエリアス、バラドスの順に届けてください」
「シバ、頼んだよ?」
「ワンワン!」
トリシアがさっと認めた手紙を収納魔法にしまうと、一気にシバは窓から飛び降りて姿を消す。
「ではシズル様。私達もファントの所に行きましょう。皆様、宣言については皆様にお願いするほかありませんので、よろしくお願いします」
こうして再び訪れた神殿。
ファントは既に国内の出来事、特に存在感の大きいトリシア周辺の事は把握しているので、二人が神殿に来ると同時に顕現する。
「話は聞かせてもらった。もちろん庇護下に置く事も問題ないが……エリアスが範囲を拡大した上で俺の庇護を乗せるのだろう?きっちりと起きているのか、起きてもらえるのか、そもそも連絡が付くのかが不安だ。シバに向かわせたようだが、それだけで意識が覚醒するのか、何度も言うが本当にそこだけが不安だな」
やはりエリアスは神々の間でも相当グウタラであると認識されているのだな……と思っているシズルだが、あの集落を守るための行動を開始するべくこの場に来ているので、余計な事は口にしない。
「どうしてもエリアスの動きが遅ければ……向こうの方が、距離が近くて庇護下に置きやすいのですが、最悪はファントに最初に庇護してもらう事も考えます」
「……あのエリアスだからな。承知した。次の連絡を待っている。すぐにでも対応できる様に準備だけはしておこう」
ファントとの会話が終わり神殿を後にする二人。
「トリシアさん。僕は最初にこの話を聞いたとき、あの五人の子供達の顔が浮かびました。両親の命をヘルナンド公爵に奪われてしまい、突然幸せが崩れた子供達。彼等のような人達がもっと他にもいると思います。そんな人達にも、アドビさんの食事を食べて幸せになってほしいです」
「シズル様……私もそう思います」
このような話になったので観光を一時止めて二人に与えられている部屋に戻ると、帝国守護神である炎神ファントとの話がどうなったのか気になっているようで、部屋の前で皇帝ベルヘルトが待っていた為にシズルが事情を説明する。
「……と言う事で庇護については了解いただけましたので、あとはエリアス様との話が上手く行けばヘルナンド公爵領のあの町の近くに店を出す事になります」
「そうか。それならば宿の建設は帝国アグニが請け負おう。そこにも我が騎士が常駐すればより安全だ」
ベルヘルトは安全の為に集落と販売及び宿泊用の建屋共に騎士を派遣すると言っており、実際は神々、それもファント、エリアス、バラドス三柱の神の庇護下にある以上ここまでする必要はないのだが、最近は噂を聞き付けた帝国内で活動している騎士からもアドビの食事が食べられる環境を作れとの突き上げが激しくなっているので、交代で任務に就かせる事で解消しようと企んでいた。
騎士に突き上げられる皇帝と言うのも微妙だが騎士の忠誠心は疑いようが無く、主従の関係でありながらも戦友のような位置づけなのだろう。
本来建屋程度であればエリアスの力を遣えば即完成なのだろうし、道や地盤についてはバラドスが行えばこちらも即完了できるのだが、建屋に関してはいかんせんあのエリアスなので、その作業が行われる時間起きていられるか非常に不安なトリシアは、皇帝の案を否定する事は無く黙って聞いている。
「えっと、ベルヘルト様。あのあたりは集落も含めてどこにも属さない場所と聞いていますが、今回神の庇護のもとでその管理地を増やすのは問題ないでしょうか?」
人として、国家としての問題になりそうな可能性について言及するシズルだが、ヘルベルトはその不安を理解していたようだ。
「どこにも属さない場所、それこそ神の物であると言う事だぞ、シズル殿。そこに神が庇護をすると宣言の上で活動する以上バカな事を言って来る国家などあるはずが……普通はないのだがな……最近は少々お頭の弱い連中が増えているから、その辺りも含めて騎士を派遣しているから問題ないだろう」
最悪は帝国アグニが矢面に立つ事になると言っているベルヘルトの明確な宣言を聞いて安堵するシズルと、やはり相当切れ者の皇帝であると認識するトリシアだ。
その後の行動は一部のグウタラ神に対する作業だけが滞りがちになったのだが、そこは帝国が人を出して人海戦術で補ったのでそれ以外はとんとん拍子に進んでおり、あの集落と定期便の中継所になっている町の中間部分にいつの間にか整備された街道と大きな建屋が完成した。
そこには帝国アグニ、即ち炎神ファントを示す旗と、相談しても眠りこけて反応を示さなかったので勝手に植神エリアスをイメージしたピュアリーフを描いた旗、そして扶養な大地が描かれた地神バラドスの旗、三種類がパタパタと風を受けており、皇帝ベルヘルトの宣伝もあってか早い段階で新たな馬車の中継所として使われる事になった。
アドビは集落で食事を大量に作りつつも宿の食事も作っているので傍から見るととんでもない忙しさなのだが、レーニャと共に笑顔で仕事をこなしており、集落の人々、そして五人の子供も積極的に手伝っているので、問題なさそうだ。
この宿の過ごしやすさ、食事の美味しさ、更には宿の部屋から見える地神バラドスによって作られた見ごたえのある渓谷、珍しく仕事をした植神エリアスによる大草原もあって、予定の定期便をキャンセルして延泊する者が続出している。
いつの間にかこの宿に泊まるツアーまで組まれる程で、反比例するようにヘルナンド公爵領の宿やポフルの店は閑散とするのだった。




