(3)ファント
トリシアの説明を聞いて、炎神ファントの声は明るくなる。
「そうか。やはりゴアによる制約か。バラドスやアクアの存在が掴めるようになったのはトリシアと……シズルと言ったか?二人のおかげ。いや、スマン。その方も頑張ったのだな。シバと申すか。良くやった。実はバラドスとは過去にこの件を相談している内にいつの間にか気配が無くなったのでな。あれほど慎重な男が消えたとなれば次は自分と思うのが普通だろう?残るエリアスと連絡を密にしたつもりなのだが、いかんせん緊張感のないエリアスだけに連絡がまともにつくのも十回に一回有るか無いか。途方に暮れていた」
確かにあのエリアスならさもありなんと思っているシズルとトリシア。
「バラドスは、この異常はゴアによるものと確信していたからな。対策について色々協議して、実際向こうでは迎撃準備が相当整ったと聞いていたのだが……それで突然連絡がつかなくなれば、神とて焦るのは仕方がなかろう?」
「そうですね。ですが先程申し上げました通り、もう安心です。ゴアは魔王城から出る事が出来ませんから。眷属を使うにも、神域魔法は私が糧を提供しない以上使えませんので、今まで以上の戦力を得る事は有り得ません」
「……トリシアも幼いのに良く頑張ったな。そして、トリシアを支えたその伴侶たるシズルよ。見ればわかる。その方はトリシアから全幅の信頼を得ているな。それと……フム、相当な加護を持っているではないか。お礼も兼ねてそこに我が炎神であるファントの加護もつけさせてもらおうか」
シズルは、天空神トリシア、地神バラドス、水神アクア、いつの間にか植神エリアスの加護も得ていたらしく、そこに炎神であるファントの加護も返事をする前に与えられた。
「で、残る制約を受けているのは……空神スカイと獣神ビートか。二人の解放を目指すのだろう?解除条件に心当たりはあるのか?」
「ありませんが、バラドスの推理によればそれぞれが司っている物に関係する可能性が高いそうですよ。知恵の回らないバカのする事ですから、間違いない!と自信満々でした」
「ぷっ、ははははは、そうか。確かに言われてみればその可能性が高いだろうな。是非とも解放してやってくれ。俺も力になれる事があれば何でも言ってくれて構わない。だが、今回は本当に助かったぞ。俺はこの帝国中を加護の範囲にしている以上、もしゴアが襲ってくれば対抗する為の力は限られるからな。恐らく碌に反撃する事も出来ずに屈辱的な制約を受けていただろう」
「帝都の方達にはあまり事情は話していないようですが、いつも話す時はその姿なのですか?」
「ん?あぁ、そうだ。実体で顕現しては影響があるだろう?」
二人の神の会話の中で突然トリシアの表情が曇るが、シズルはその変化を即座に掴み取る。
「トリシアさん!」
シズルが優しく声をかける。
本当に心の底からの笑顔で、愛する妻であるトリシアの不安を取り除くように。
シズルの声を聞き視線を上げて愛する夫の顔を見たトリシアだが、やはり互いを想う状態で神と濃厚な接触が絶えず行われている影響、人ではなくなる可能性が高いと知っているトリシアの表情は悲しげだ。
その表情を見たシズルは、トリシアの柔らかい頬を本当に軽く抓ってこう告げる。
「トリシアさん。僕はトリシアさんの不安を取り除きたい。僕はどんな姿でもトリシアさんの隣にいられればそれで良いのです。本当は僕ってテイマーで力がなくって、その分を補う為に成長限界がないシバを眷属にしていますが、それは普通の人であれば……と言う事ではないですか?さっき炎神ファント様に加護を頂いたとき、また僕の力が明らかに上がった事がわかりました」
ここまで聞いて、トリシアは不安なのか安堵なのかわからずに目に涙を溜めている。
「きっと、こんな力を得ては人の器では耐えられないのでしょう?最近は良く見るだけで物の詳細もわかるようになっていますし、どう見ても人の力じゃないですよね?でも、僕は僕です。えっと、人の形ではなくなるのであれば少しだけ不安がありますが、それでもトリシアさんと共にいられるのであれば関係ありません!」
「……シズル様!!」
トリシアがシズルの表情を見て何を考えているかわかってしまうように、かなりの力を得て人と言う枠からはみ出しているシズルも、元から素養はあったがトリシアへの想いも相まって表情から凡その事はわかってしまうようになっていた。
そして今回、炎神ファントの加護を得た事で明らかに自分と言う存在が一つ各上になったような感覚があり、不安そうな表情のトリシアを安心させる為に行動した結果、トリシアは感極まってシズルの胸の中でワンワン泣いてしまったのだ。
「シズルよ、トリシアの事……任せたぞ。何かあればまたここに来ると良い」
この場はお邪魔かと思った炎神ファントは、これだけ告げると人型を形作っていた炎は霧散して行く。
その後シズルはひたすら泣いているトリシアを優しく抱きしめ、その美しい金髪を撫でて落ち着かせるのだった。
「トリシアさん。大丈夫ですよ。いつまでも一緒ですよ!」
その後どれくらい時間が経ったのだろうか、漸く泣き止んだトリシアは金目を赤くしながらもこう告げる。
「シズル様、今まで黙っていて申し訳ありません。その……人ではなくなると知って離れて行かれるかもしれないと思うと、どうしても言えなくて……」
「フフ、トリシアさん。僕が離れる訳がないじゃないですか。でも、嬉しいです。これからもよろしくお願いしますね!」
「はいっ!!」
いつの間にか二人の仲が深まるイベントに早変わりしていたのだが、一応当初の目的である炎神ファントに状況を説明する事は出来たのだった。




