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神の揉め事に巻き込まれた男と被害者女神の世直し旅  作者: 焼納豆
炎神ファント

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(1)帝国アグニ

 帝国アグニ……


 歴代皇帝は炎神ファントの加護を色濃く受けて勇猛果敢で知られていると共に、自由奔放でしょっちゅう国を抜け出しては国家重鎮に怒られていると言う逸話もある。


 今代皇帝であるベルヘルトも歴代皇帝と同じく、強く炎神ファントの加護を受けていると共に自由奔放であり、食の旅に出ると書き置きをして放浪していた。


 身分を隠してかなりの国家を渡り歩き、自国の隣にあるミツバ王国のヘルナンド領にまで到着した時に看過できない事態が起き、自分の位置を自国重鎮に教える事になる不利益を呑んでまで騎士を急遽派遣させた。


 販売されているお弁当が非常に美味しかった事、お弁当の中に間違いなくピュアリーフが使われている事、更には神の加護を受けし者が関連しているので、その食事を見た(・・)瞬間に迷う事なく騎士の派遣を手配したのだ。


 流石に皇帝ともなれば陰の者が常にその周辺の安全を確保しているので、いくら書き置きをして脱走しようが陰を振り切る事はできないが、この陰は皇帝の命を至上としているので、たとえ皇帝が帝国を脱走しようが黙って後を付いて行く存在なのだ。


 この陰を使って帝国アグニに大至急騎士を派遣するように事前(・・)に要請させており、事が起きなければそのまま騎士と共に帝国に戻り、事が起きればそのまま騎士をアドビ達の守りにつけようと思っていた。


 結果……騎士の派遣は無駄にならずにアドビ達の護衛を行う事になったのだが、最終的には一部の騎士と共に帝国アグニに戻る事になった皇帝ベルヘルト。


「アドビよ。是非とも我が国にも食事を振舞ってもらいたい。もう君の食事なしでは生きていけない体になってしまった」


 今は植神エリアスが庇護する集落のアドビの家兼食堂で、一部の護衛騎士や陰と共に椅子に座っているベルヘルト。


 騎士や陰が普通に椅子に座っているのは、この場所であればベルヘルトの安全は間違いなく確保できると知っている為だ。


 本来最も威厳に満ち溢れているべき皇帝と言う存在のベルヘルトの口から洩れているのは、とても皇帝とは思えない程情けない言葉ではあるが、言われたアドビは嬉しさの限界突破をしてしまい、上手く口が開けない。


 その姿を見て、最近はこの家に入りびたりのレーニャが嬉しそうに話す。


「フフ、アドビさん。おめでとうございます。昨日話をさせて頂いたこの集落に入ってこられる帝国アグニのお方、この騎士の方達なのですよ。そうだ!今後は帝国にピュアリーフを販売する時にお弁当も販売しては如何ですか?」


「ま、待ってくれレーニャ。それでは一月に一度程度だろう?なんとか、そこをなんとか曲げてもらって、もう少し回数を上げてはもらえないだろうか?そうだ!我らが食事をここまで取りに来るのも有りだ!早馬を乗り換えれば一日かからずに着くだろう?どうだ?悪くない考えだろう!」


 騎士や陰が皇帝の言葉を否定する事は無いのだが、あまりの必死さに微笑ましい気持ちになっている。


 欲に素直だが、尊大な態度はとらずに弱者にも優しい皇帝ベルヘルト。

 そんな人柄に惹かれている騎士や陰は、優しい笑みを浮かべているだけだ。


「は~、ベルヘルト様。いつも好き勝手に皇居を抜け出しては放浪し、実に嘆かわしい。その間の執務は全て私が行っております事、お忘れなきよう!」


 まるで瞬間に冷凍されたかのように固まるベルヘルトは、ゆっくりとその声が聞こえる方を振り返る。


「じ、爺……」


 皇帝に対して厳しく叱責できる唯一の立場……先代皇帝からの皇帝の講師である“爺”と呼ばれているこの男は、呆れるような声を出しつつ突然この場に現れた。


 その後……暫くこってりと騎士や陰、更には集落の人々の前で怒られた皇帝ヘルベルトは、今この時点(・・・・・)では月一のピュアリーフ販売時に食事を受け取る事で渋々首を縦に振っていた。


「して、エリアス様とトリシア様は何処に?」


 炎神ファントの強い加護を受けている以上、他の神の事情に詳しいのは当然で、“爺”はこの場にいると聞かされているエリアスとトリシアの姿を探す。


「その、エリアス様は週に一度顕現くださるとお約束頂いておりますが、まだ前回の顕現から一週間経過しておりませんので。トリシア様はあちらにいらっしゃいます」


 レーニャが指し示す方向には、この店に向かってきている二人と一匹の犬に見える魔獣。


 いつもの通りに蕩ける笑顔でシズルの腕を抱きしめながら、仲睦ましい様子を無駄にまき散らして歩いている。


「ホッホッホ、確かに神々しい。天空神トリシア様と、そしてその伴侶の方ですかな?ベルヘルト様」


「そうだ。私もトリシア様を一目見た時にそのお姿に吸い込まれそうになったが、どう見ても炎神ファント様と似たような雰囲気を感じたのでな。不敬にならぬように気を付けていた。だがトリシア様は無駄に遜る事を良しとしない。爺もそこは気を付けるが良い」


 こうしてこの日の食堂は、エリアスが顕現しない代わりに皇帝やそのお付きの者達で賑わいを見せていた。


「トリシア様、シズル殿。神々の事情は全てではないが私も一部聞き及んでいる。炎神ファント様が我らに伝えられない事があるのかもしれないので、今後の為にも我が帝国アグニに同行頂き、ファント様と会談されてはどうだろうか?」


 こうして皇帝ベルヘルト達と共に帝国アグニに移動する事になったシズル達は、皇帝の言葉を聞いて今後この集落が発展して行く事を確信して、安心して出立できると安堵する。


「この集落は、我ら帝国アグニの一部の者達の第二の故郷でもある。アドビと同行する騎士達もここを拠点とするので、今後更に賑やかになるだろう」


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