(22)町の外での販売
町の外に到着したアドビとレーニャは昨日と同じくお弁当を広げ、そこにきちんと並んでいる人々に対して丁寧に販売していく。
「あ~、良い匂いだ~」
そこに、今まで何も役に立っていないエリアスが食事の匂いによって覚醒したらしく、もぞもぞと動き始めたので、センライはそっと背負子を下ろす。
「お目覚めになられましたか、エリアス様」
「はい~。お腹空きました~」
何をしに来たかをすっかり忘れているエリアスだが、センライにしてみれば崇める神を運べる栄誉、直接話をする事ができる栄誉を賜っているので、それだけで胸がいっぱいになっているのだが、その神の声、要望を聴いて、旅人の列に並んで食事を購入する為に慌てて列に並ぶセンライだが、自分の順番のかなり前でお弁当は全て完売してしまった。
「くっ、私とした事がエリアス様の為に結果を出せないなど、何という大失態だ!不甲斐ない!」
お弁当を買えなかった事に対して非常に悔しがっているのを見て、周囲の……特に同じようにお弁当を購入できなかった人々はこう思っている。
『なぜ販売している側の人間がお弁当を購入できないと悔しがっているのだろう……』
……と。
「皆さん、申し訳ない。今朝購入できなかった人は、昼の販売を優先的にさせてもらおうと思う。この札を持って来てくれれば、昼は並ばずに必ず買える事を保証させてもらう。昼に購入してくれる人で今朝買えなかった人、こっちに来てくれ」
直後、アドビの声を聞いてワラワラ集まってくる人々の中に、何故かセンライがいた事も付け加えておく。
「エリアス様。もしよろしければ、こちらをお食べ下さい!」
その様子を見ていたベルヘルトが、自らが購入していたお弁当を恭しくエリアスに差し出した。
「え~、良いのですか~?」
少し申し訳なさそうにしているエリアスだが、その視線はお弁当に釘付けだ。
「当然です。私の国はいつもエリアス様にお世話になっていますから。ピュアリーフのおかげで病気知らずの国民。これ以上ない程にお力添えを頂いているのは知っております。我ら守護神である炎神ファント様からも常々言われております故、この程度では何の恩返しにもなっておりませんが、是非とも……」
「ありがとうございます~。美味しそうです~」
このやり取りを聞いているセンライは、札を貰うと即座にエリアスの近くにいるベルヘルトの元に走って戻ってくる。
「大変申し訳ありません。その……こちらをどうぞ」
「あぁ、こちらこそ申し訳ない。フフ、これでお昼は確実に食べられるわけだ。ところで、あの町の悪行は私の目と耳で確認できた。これほど神の加護について公になっているのにあの態度。更にはセンライ殿がエリアス様と共に来訪したと言っていたにも係わらず……だ。ミツバ王国の中枢、公爵もこの程度の存在であれば、販売場所を変える事もやむを得ないだろう。必要であれば我らが騎士を護衛に配置するが、如何だろうか?」
エリアスが嬉しそうにハムハムとお弁当と食べている隣で、真剣な話をしているベルヘルトとセンライ。
どうやらこの二人は知り合いのようで、特にベルヘルトは炎神ファントの庇護下にある帝国アグニの重要人物の様だ。
「皇帝陛下のお言葉、ありがたく頂戴しても宜しいでしょうか?」
いくらミツバ王国、そしてヘルナンド公爵領からは外れた場所で活動するとしても、欲に塗れた者であれば何をしてくるかわからない。
植神エリアスの庇護下にある者であったとしても、結局は二十人弱の集落なので襲い掛かられる可能性はゼロではないのだが、そこに帝国所属と明らかな騎士がいれば話は別だ。
めったに見る事の出来ない神よりも余程牽制になるので、センライは皇帝ベルヘルトの申し出を受ける事にした。
その日の昼時、再び町の近くで食事を販売しようとしたアドビは、ヘルナンド公爵領で見た騎士ではなく帝国アグニ所属の騎士がいる事に気が付く。
ご丁寧に、帝国アグニの象徴である炎が描かれた旗をたなびかせていたのだ。
「おぉ、待ちかねた。早く販売してくれ」
その騎士に守られるように待っていたのは、帝国アグニの皇帝であるベルヘルト。
朝食時にセンライから貰った札をブンブン振り回しながら騒いでいるのだが、事情を知っている周辺の人々はベルヘルトが皇帝と知って驚いてはいたのだろうが、この数日彼の素の性格を見て来たので、怯える事は無くにこやかだ。
「アドビさん。良かったですね」
急ぎ販売の準備をしながらレーニャの言葉に頷くアドビの視線の先には、悔しそうな顔をしながら睨んでくるヘルナンド公爵領の騎士やポフルがいた。
流石に他国の騎士が守っている所、それも自国外の場所で文句を言うわけにもいかずに黙ってアドビ達を睨むしかできない状況に陥っていた。
「これで安泰……か?」
安堵の声を漏らすアドビに対し、ベルヘルトはポフル達に聞こえるようにこう告げる。
「ハハハハ、あの邪魔者達の心配はするな。神の加護がない国に未来はない。遠からず視界から消え失せるだろう」




