(18)領主とヨシエ
3日に連続投稿の予定です!
ポフルの言葉に反応したのは、公爵ではなくヨシエだ。
「え?何それ?ちょ~うける。真っ向から喧嘩売ってんじゃん。よっぽど味に自信があるのかも。あたし、一回食べに行こっと!」
「フム、確かに敵を知るには良い機会だな。ポフルは食べたのか?」
「いいえ、あれほど屈辱的な状況で敵の食事を購入するなど、私にはとてもできません。料理人としての意地もあります」
ポフルの予定では、ここでヘルナンド公爵が怒りだしてアドビを断罪しに行く予定だったのだが、ヨシエの余計な一言で流れが変わったのか敵の食事を購入する流れになり始めている。
「正直私も食事に飽きてきた頃でな。ポフルの食事を一度食べるのも良いが、お前はなかなか首を縦に振らんから、そのアドビとか言う男の食事を食べてみるのも一興だ」
「さっすが!話が分かるじゃん。ちょ~うける。早速行こっか!」
この流れを止める事は出来ないので、黙って付いて行くポフル。
冷静に考えれば、ヘルナンド公爵はアドビに対してはそれほど興味が無かった事を今更ながら思い出した。
『こうなれば、あの食事がとてつもなく不味い事を期待するしかないか?』
一先ず満腹亭に三人と護衛の騎士で戻るのだが、当然まだアドビは来ていない。
「何アレ?ちょ~うける。アイドルの出待じゃないんだからさ~、何集まっちゃってんの?」
一部ヘルナンド公爵やポフルにはわからない表現が入っているが、ヨシエの言う通り、朝、昼と食べ損ねたベルヘルトを筆頭に夕食も買おうと人々が群がっていたのだ。
「ほう、あれほど人気であれば期待ができるな。だが、下賤の者達と同じように群がるのは公爵と言う立場を落とす事になりかねん。暫し、お前の店で休ませてもらうぞ」
「は、はい」
有無をも言わさず満腹亭に入るヘルナンド公爵達。
「うっ、ちょっと、ちょ~臭いんですけど?アンタ何作ってんの?そもそも掃除してんの?ここって、食堂じゃん?信じられないんですけど~!」
ポフルは慣れてしまって感じないが、店の中はどうやら少々匂うらしい。
それも料理の良い匂いではなく、生ごみやカビの混ざり込んだ匂いの上、美味しくない食事の匂いが更にブレンドされている悪の相乗効果だ。
「むっ、確かにヨシエの言う通りだな。外では感じなかったが、店の中は何やら匂うぞ。料理に何か特殊な味付けをしているのか?」
「は、はい。企業秘密の為に詳細は申し上げられませんが、満腹亭きっての自慢料理の味付けの途中に、どうしてもこのような匂いを発してしまうのですよ。ハハハハハ」
冷や汗をかきながらなんとかこの場をやり過ごそうとしているポフル。
ポフルの鼻はもう真面ではないので臭いとは思はないが、既にこの店に連れ込まれている一見の旅人達は放心状態で食事を少しだけつついている。
中にはあまりお金を持っていない者もいるので、何とか一食分を無駄にしないように決死の覚悟でお腹に詰め込むべく、涙を流しながら口にしている者さえいる。
これでお値段が安ければ少しは救われるのだが、アドビが販売しているお弁当の五倍以上するのだから救えない。
「少々小腹がすいていたが、ここで食べるのはやめておこう」
「当然じゃん?秘伝だか何だか知らないけど、どう考えてもコレって腐った匂いじゃん?ちょ~うけるんですけど?」
ぶつぶつ文句を言いながらも、表通りの人々が集まっている場所が良く見える席について水だけを飲んでいる二人。
ポフルはこれ以上何かを言われる事を嫌い、慌てて厨房の中に消えて行く。
目立たないように、普段は行かない厨房の奥の方に行くと……そこにはヨシエが指摘した様に腐った食材が山積みになっており、虫まで湧いている始末だ。
「こ……おい!これを早く片付けろ!!」
真っ赤な顔をして、小さい声ながらも怒鳴りつけると言う器用な事をしているポフルだが、あの頭スカスカに見える公爵令嬢、ボサボサチンチクリンのヨシエが言っている事が正しかった事に驚愕する。
ないとは思うが、公爵やヨシエが厨房の中を覗きたいと言ってくれば終わりなので、炎の魔術を使える者を急遽呼び寄せて、目立たない裏手に少しずつ腐った食材を運んで燃やしている。
誰もが虫の湧いている腐った食材を運ぶのは抵抗があるので、その処理速度は非常に遅く、遅々として進まない作業に怒りを隠せないポフル。
「早くせんか!お前等首にするぞ!」
何時でもどうぞと言えれば楽なのだが、領主と共に帰って来たポフルに逆らえる者はいないので、泣く泣く運び続ける。
「おい、おい!ポフル!来たようだぞ!!」
「い、今参ります!」
そこに客席方面からヘルナンド公爵の声が聞こえてきたので慌てて出て行くと、確かに今までアドビ達が来た時と同じく表通りが騒がしくなっており、間違いなくアドビが到着したと判断したポフルだ。




