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神の揉め事に巻き込まれた男と被害者女神の世直し旅  作者: 焼納豆
植神エリアス

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(16)弁当の販売

「アドビさん。この町の住民には購入いただけなさそうですね。場合によっては別の町での販売も視野に入れた方が良いと思います」


「確かに兄ちゃんの言う事も一理あるが、別にこの町の連中に買ってもらわなくても旅人に購入してもらえば良いから、もう少し様子を見るさ」


 この町は乗合馬車の休憩場兼宿泊所になっているので、毎日のように旅人が訪れて、去って行く。


 今までは指定されていた宿の食堂か、町を散策している時に最も目立ち半ば強引に集客している満腹亭の独占状態だった。


 ある意味一見の客になるのでどちらも味については二の次で、如何に多くの売り上げを上げるかに意識が向いていたので印象はすこぶる悪い。


 アドビの予想通りにお弁当は町民以外の人々によって全て購入され、食べた人達全員がその味に歓喜するとともに、二次的な効果の体調が改善された事にも喜んでいた。


「店主!俺はあんたの弁当を食う為に明朝の定期便は見送る事にした。明日もここに来るだろう?」


「私もそうするわ。それより、貴方のお店はどこかしら?」


 中にはシズルやトリシアのように、予定の定期便に乗らずに自費で延泊してまでアドビのお弁当を購入したいと言って来る者までいた。


 その内の一人……そこそこ良い服装をしている男が、近くで忌々しそうな顔をしている満腹亭の店主であるポフルに聞こえるように、アドビにやや大きな声でこう伝えてきた。


「素晴らしい食事だった。乗合馬車の長旅を経験中なのだが、やはり一番の楽しみはそれぞれの町での食事に尽きる。それなのに、正直この町の食事は本当に最悪だと思ったが……」


 堂々とポフルの方を見るこの男の姿を見て、周囲の町民は怯えてこの場から去って行く。


 暴言を受けたポフルが暴れて騒ぎが大きくなると、領主の手の者まで出てくる可能性があるので巻き添えを食らわないようにしたのだ。


 そんな町民の事を一切気にせず、男は続ける。


「本当に楽しみが一気に苦しみに変わったのだが、そこに現れた救世主が君だ。あの苦痛を差し引いても余りあるほどの美味しさ。素材の良さもあるのだろうが、それぞれの素材が見事に調和しているように仕上げる技術!見た目にも気を使っているのが良くわかる。正直、私は結構な種類の食事を口にしていると自負しているが、君が作った食事の中の材料、わからない物だらけで非常に興味がある。ピュアリーフが含まれている事は分かるのだが……あのご婦人が言われた通り、良ければ君の店舗を紹介いただけないだろうか?」


 興奮してきたこの男は一気に捲し立てるのだが、アドビは直に答える事が出来なかった。


 なぜならば、あまりにも嬉しくて涙を流してしまったのだ。


「どうしたのだ?いや、失礼があったのならば謝罪しよう」


 当然一気に話していた男は狼狽しているのだが、後ろに控えていたトリシアが半歩前に出て軽く事情を説明する。


「いいえ、貴方様の賛辞に喜びを抑えきれないだけなのです。今迄苦労し続けてきた料理人ですので、ご容赦ください」


「む?そうか。ならば良かったが……その、店舗についてはどうなのだろうか?」


「フフ、実は植神エリアスの加護が与えられている場所に住んでおりまして、神の許可がないと入る事はおろか辿り着く事もできません。申し訳ありません」


「なんと!神の加護!!それ程の人材であれば、あの料理も納得できるな。ふむ。理解した。では私も明日の販売を楽しみに待つとしよう」


 華麗に去って行く男と共に、同じように店舗の場所を聞いていた女性を含めてお弁当を購入した者達は去って行く。


「す、すまない。いや、申し訳ありません、トリシア様。情けない所をお見せして」


「フフフ、お気になさらずに。ですが本当に良かったですね。私も美味しいと思っていましたが、万人に受け入れて頂ける味。素晴らしいです」


 三人で盛り上がりながら帰路につき、明日はもっと数を多く、そして昼と夜も販売しようと計画している。


 その後アドビと別れたシズルとトリシアは、少しだけ表情を硬くする。


「トリシアさん、あの男性……ちょっと違和感があると言いますか。先ずはトリシアさんに対して本当に一瞬だけ視線が固定されましたが、普通の人ではわからないレベルでした。その上、神の加護と聞いて驚きこそすれ、疑う事は一切なかったです」


 今までの男性は、ほぼ全てがトリシアの美しさと抑えきれない高貴さにやられているのだが、そう言った素振りが見受けられなかったのだ。


 アドビのように、他の事に意識が大きく傾いている場合にのみこう言った状況になるとシズルは思っているので、食事を食べる前、お弁当を購入する時からそのような態度であった男性に違和感を覚えたのだ。


 一体何に対して意識を向けているのか……何か危険があるのか……と。


「確かにそうですね。私に向けられた視線の中では今迄にない程普通の視線でした。神の加護については、あのお方の周辺で同様に加護を受けている方がいるのかもしれませんね」


 植神エリアスのように、いつの間にか加護を与えている場合もあると認識したトリシアは、その考えを静流に伝えた。


「そうかもしれませんね。あの場所がヘルナンド領なので、少し考えすぎたのかもしれません。良く考えればあの男性からは悪い雰囲気を感じなかったのですから、安心しても良いですよね?」


「そうですね。私もそう思います、静流様」


 こうして初日の販売は大成功となった。


3日に連続投稿の予定です!

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