(15)町に戻る
相変わらずの称賛を受けた朝食も終わり、その後子供達と共に集落をレーニャと見て回ると、酪農、養鶏に似たような事も行われており、果物の他にも昨晩見つけた以上の調味料となり得る実がある事に気が付いたアドビ。
「これは……凄い。これだけ材料があれば何でもできそうだ!今までこの実は使わなかったのか?」
自分の中では万能調味料と考えている実を指し示すアドビ。
「えっと、誰もその実が食材になるとは思わなくって……前に誰かが一口齧って吐き出していたので、この辺りの実は食べられない物として扱われています」
この集落では実をそのまま食べる事しかしなかったらしく、熱して乾燥後、粉にして少しだけ食材に混ぜると言った事は一切行われていなかった。
「もったいない」
思わず漏れるアドビの一言だが、逆にこれから作る料理は集落の人々にとっては間違いなく初めての味になると思い、ますますやる気に火が付くアドビだ。
「良く考えれば、これほどの調味料があれば販売用の食事は簡単にできそうだ。様子を見る意味も兼ねて軽く作って、町に戻って売ってみるか……」
独り言のつもりだったのだが、レーニャは律儀にこう返した。
「それは素晴らしいですね。ですが初回はトリシア様とシズルさんと同行した方が良いかと思います。アドビさんもエリアス様の加護を得ていますが、身を守れる程に至っているかはわかりませんから」
「そ、そうか?そうするよ。ありがとう」
独り言に返されたアドビは少しだけ驚きつつも、確かにその通りだと思いお礼を告げた。
その後家に戻って軽く十食分作ると、センライから渡されている収納袋に入れて家を出る。
いつの間にか話を聞いたのか家の外には丁度トリシアとシズルが待っており、時間を一切無駄にする事無く再びヘルナンド領の町に戻る事になった。
その間子供達は家を出て大木からも出て、平原でシバと共に遊んでいるので、シズルは念のためにシバに一声かけておく。
「シバ、平原の外に勢いで出ないように気を付けてあげてね!」
「ワンワン!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、行ってらっしゃい!アドビさんも行ってらっしゃい!」
子供達からの見送りを受けて、360度全く同じ景色に見える中で森の一点に向かうアドビの後ろをシズルとトリシアが付いて行く。
「アドビさん、やっぱり何となく方向がわかるのですか?」
自分では全く同じ景色に見えるとある一点に迷いなく向かっているので、念のために確認するシズル。
「不思議だよな?兄ちゃん。でも、何となく俺が住んでいた町はこっちだってわかるんだよ」
「エリアスの加護による力の一部ですね」
こうして町に到着した後、自分の店がどのようになっているのか確認するために移動するアドビだが、その目の前に広がっているのは既に扉は破壊されて、中も荒らされている状態だった。
シズルとトリシアは厳しい視線を向けているのに対し、アドビはあっさりしている。
「まっ、こうなるとは思っていたからな。大切な物は持ち出し済み。何も問題ない!」
納得はいかないが、当の本人が良いと言っている以上は余計な事は言わないで大人しくしている二人。
「そんなに厳しい顔をしなくても大丈夫だ。兄ちゃん、トリシア様。本当に本心からもうここはどうでも良くてな。あの集落での生活、料理が楽しくて仕方がないからだろうな。次に何を作って喜んでもらうかばかり考えている」
前を向いているアドビの表情に嘘はなさそうなので、その後敢えて満腹亭の近くで販売用の食事を出すアドビ。
町の入門時には、何とかピュアリーフを手に入れるべくセンライ達の後を追っていたメンバーが次のチャンスを狙うべく監視しており、あっという間にアドビが戻って来た事は知れ渡っているのだが、植神エリアスの庇護下にあると言う事も広く知れ渡っているのでレーニャが心配した様に襲い掛かられる事はなかった。
逆に目立っているからこそ、突然アドビがお弁当のような物を出して販売し始めた時に人だかりができていた。
この町の住民達は領主であるヘルナンド公爵や満腹亭のポフルからの報復を恐れて購入する者はいないのだが、今まで嗅いだ事のない様な食欲をそそる良い匂いに意識が向いている。
「おっ、長旅の癒しはこれだよな。って、お兄さん……凄い美人さんを連れているね」
「ちょっとアンタ!私と言う者がいながら!!」
「まてまて、誤解だ。落ち着け。な?でも、お前から見ても美人だと思うだろう?それよりも、美味そうな飯でも食って旅を楽しもうぜ?」
「そ、そう?そうね。確かに私から見ても凄く綺麗だし。まぁいいわ。二つ頂けるかしら?」
アドビの後ろにはシズルとトリシアがおり、二人が乗ってきた乗合馬車の別便で到着したのであろう何の柵もない旅人夫婦がアドビのお弁当の匂いにつられて近づき、お約束のトリシアに見惚れると言う一連の行動をした後にお弁当を購入する。
当然このお弁当にも細かく切ったピュアリーフが隠し味に使われており、少々疲れていた旅人二人が食事をしたとたんに元気になったのは言うまでもない。




