まだ
晴也は手術室前の廊下の椅子で医者が出てくるのを待っていた。
肘を膝の上に乗せて頭を抱えた。
『(なんで…なんであの時…)』
桜泉に言ってしまった冷たい言葉を今になってとても後悔していた。
『晴也くん!!!』
病院の入口から女性の声とヒールで走る音が聞こえた。
その女性は桜泉のお母さんだった。仕事から抜け出して来たのだろう。
晴也は思わず立ち上がった。
『桜泉…まだ手術中?』
息を切らしながら晴也に聞いた。
『はい…僕が…桜泉に冷たいこと言ったから…だから桜泉は傷ついて…』
晴也は罪深く感じ、心拍数が上がると同時に涙が出るのを我慢した。
『晴也くん。大丈夫よ。晴也くんが全て悪いんじゃないわ。きっと…』
ガラガラ。
桜泉のお母さんの言葉をさえぎるように手術室から医者が出てきた。
『私の娘は…私の娘はどうなったんですか!?』
桜泉のお母さんが一目散に医者のところに向かって震える声で聞いた。
『藤本桜泉さんですよね。娘さんは…今生死の境をさ迷っています。ようするに意識不明の状態です。』
医者は少し悲しそうに言った。
『今日は面会時間が終了していますので、明日またお越しください』
医者はそう言うとスタスタと向こうに行ってしまった。
『(生死の境をさ迷っている…。)』
1歩違えば死んでしまうということになると晴也は息を飲んだ。
次の日の練習は行かなかった。
朝の8時。
『行ったって…』
晴也はスポーツバッグをじっと睨んだ。
『きっとコーチは俺のこと嫌いなんだろうな』
バスケは大好きだけれど、なかなかコーチと上手く関われなかった。
朝の9時。
面会時間が始まって桜泉の病室に入った。
カーテンを開けると酸素マスクとたくさんの細いホースに繋がれて目を閉じている桜泉がいた。
桜泉の腕は包帯でぐるぐる巻になっていた。
近くにあった椅子に座った。
手を取るとほのかに温かくて本当に生死の境をさ迷っている人のような体温に感じた。
『痛かったよな…』
きっと怪我をしたのは腕だけではない。
体や足だって傷だらけなのだろう。そう晴也は思っていた。
『桜泉…』
もちろん名前を呼んでも明るい笑顔で反応してくれない。
病室にはよくドラマで見るモニターの数値のようなものがピーピーと鳴り響いている。
その音が無性に悲しく感じる。
『お願いだから…死ぬなよ…』
晴也は心の底から願う様に生暖かい桜泉の手を両手でギュッと握った。




