重さ
次の日、晴也は桜泉にそのことを連絡した。
『わかった』と返信してくると『今度の日曜日の大会にお弁当と全員分のクッキー作って持っていく!試合も見てみたいし』と送ってきた。
晴也は嬉しくて胸の高鳴りが抑えきれなかった。
木々から木漏れ日が出て涼しかった。スポーツバッグを肩に掛けなおして進んでいく。
『晴也〜!おはようー!』
後ろから部活の中でも唯一仲のいい安田 直人が走って駆け寄ってきた。
直人は中学1年の頃からの知り合いでずっと仲がいい。親友と言ってもいいだろう。
『おお、おはよう!』
『なぁなぁ晴也にずっと聞きたいことがあったんだけどさ』
直人はニコニコしながら晴也に聞いた。
『なに?』
『晴也の彼女の藤本桜泉って子さ…見たことないんだけどどんな子なんだ?声が出ないっていうのは聞いたことあるけどそれ本当なのか?晴也はどうやってその子と話したりするんだ?』
直人は興味津々に聞いてきた。
『あ、あぁ。桜泉は…すごい思いやりがあって可愛くて勉強もできて運動もできる…なんでもできるかな…』
『でも喋れないんじゃなんでもできるって言いきれないだろwていうかそんな子が彼女で正直、つまんなくね?喋れないから通話とかもできないし話してても周りからは独り言言ってるって見られてる気がするしー』
直人は淡々と軽い口調で言った。
晴也の心の何かがプチンっと切れた。
『…そんなこと言うなよ』
晴也の声のトーンが低くなったのに気づいた直人は『えっ』と声を出した。
『俺が誰を好きになろうとお前には関係ないだろ。』
『そ、そうだけど…。今俺が言ったのは思ったことね?』
『じゃあ、人の彼女のこと悪くいうのやめてくんねーかな?そうやって差別するの良くないって。』
『わかったわかった。お幸せにな〜』
直人は晴也の言葉を流した。
晴也はイライラして早歩きで前を歩いた。
上手くゴールができない。
『おい晴也〜今日は調子悪いな。今まではすっげー良かったのに夏休み入って夏バテか?』
先輩が晴也の肩をガシッと掴む。
『いや…なんでもないです…!大丈夫です!』
晴也は彼女のことを言おうか迷ったが他人には関係ない。と心の奥底にしまった。
30本ゴールを決めるチャンスだったのに10本しか入らなかった。
頭がモヤモヤする。バスケになかなか集中できない。
部活が終わり部室に帰ろうとした。
『おい角北。』
体育館の舞台上からコーチが腕を組んで晴也を呼んだ。
『はい!』
晴也はボールを袖に置いて走って舞台上に上がった。
『お前の今日のプレイは最悪だった。自分でもわかるよな?』
コーチはギロッと晴也を睨む。
『大会は明後日だ。こんな調子じゃ全国狙えねーのわかってるか』
晴也は『はい』と返事をした。
『目に色がないな。お前は試合に出すのをやめる』
コーチはそう言うと舞台を降りようとした。
『待ってください!今日のプレイは自分でもダメだと思っていました。もっといいプレイができたと反省しています。明日…明日まで時間をください!!』
晴也は深く頭を下げて『お願いします!!』と大きな声で言った。
コーチは振り返り、春やの前に来ると『頭をあげろ』と言った。
晴也は頭を上げると視界が歪んだ。
視界が歪んだと同時に体全体に痛みが生じた。
晴也は地面に叩き付けられて殴られた腹を抑えて横になっていた。
『頭を1回冷やせ。』
コーチはそう言うと舞台を降りてどこかに行ってしまった。
全身の力を振り絞って起き上がった。
『なんでだよっ…!!』
晴也は頭を抱えた。
『(クッキー晴也に試食してもらおうっと)』
桜泉は試しに作ったクッキーをタッパーに詰めて晴也の家を目指した。
晴也の家に着くとインターホンを鳴らした。
『はーい』
出てきたのは濡れた髪の毛をタオルで拭いている晴也だった。
『あ…桜泉…』
晴也は今朝のこととコーチのことを思い出した。
『クッキー作ったんだけど試食してくれない?』
桜泉が手話で伝えるとクッキーが入ったタッパーを前に突き出した。
晴也は息をつまらせてなにも言わなかった。
『クッキー…嫌い?』
桜泉が心配そうに聞いた。
『そんな…ことない…。クッキーは好きだけど』
晴也は桜泉のことを考えると苦しかった。
クッキーを作ってくれたのは嬉しいがなぜか受け取る気がなかった。
『ごめん…今日はそんな気分じゃない…』
晴也は暗い声でそう言うと桜泉はビックリした様子で突き出したタッパーを持った両手を自分の胸の前に持ってきた。
『なにか嫌なことでもあったの?』
桜泉が心配そうに晴也を見つめて言った。
『そんなのない…よ…。あのさ、俺今日は1人がいいんだ。もう…帰ってほしい…』
晴也は最後に言った言葉の重さを知るとハッとして1歩足を後ろに引いた。
桜泉はまた驚くと悲しそうに下を向いて
『そうだよね。急に訪ねてきてごめんね。ゆっくり休んでね』
桜泉はそう伝えると最後は笑った。悲しそうに。
『さ…』
呼び止めようとしても遅かった。桜泉の全身はもう後ろを向いてミディアムヘアの髪をユラユラ揺らして帰って行った。




