違う
『晴也ー?ご飯作っておいたけど食べるの?』
晴也の母がキッチンから呼ぶ。
『いらね…』
晴也はボソッと呟いた。
『なーにー?聞こえないわよー。返事するなら聞こえる声で言ってちょうだい!』
『聞こえる…声……』
晴也はまた独り言のように呟いた。
彼女のあの顔が浮かぶ。
『もう、いい加減にしなさい!!何言ってるのかわからないわよ!!』
晴也はハッと体が固まった。
『(俺…こんな…言葉…)』
母が言っただけでもうるさいのに。
『(男の俺が…桜泉に…強い口調でこんなこと言ったのか…?)』
桜泉にひどい事は言っていない。と自分では思っていた。本当のことを言っただけ。そうだと思っていた。
晴也はすぐさま玄関に戻って靴を履いて家を出た。
雨は本降りで大粒の雨が肌に当たる。
『(違う…桜泉が悪いんじゃない…)』
晴也は桜泉の家にきた。
インターホンを鳴らすと桜泉のお母さんが出てきた。
『晴也くん…!ずぶ濡れになって…。さぁさぁ入って』
桜泉のお母さんは心配したのかタオルを渡してリビングに案内した。
『桜泉は…』
『桜泉はお風呂に入ってるわよ。』
『そう…ですか…』
『桜泉が泣きながら帰ってきてビックリしたわ…』
桜泉のお母さんは少し苦笑いをした。
『僕が悪いんです…。僕が桜泉を泣かせてしまったんです…』
『え…?晴也くんが?』
『はい…。本当にごめんなさい。』
『違うわ。桜泉、晴也くんに泣かせられた…なんて一言も言ってなかったわよ?』
『え…』
想定外だった。
『声が出ないって…泣いてたのよ。今更って感じだけどやっぱり、ずっと抱え込んでいたのかなって…。桜泉は晴也くんが悪いなんて言っていなかった。だから晴也くんはなにも悪くないのよ。』
桜泉のお母さんがココアを作ってくれてテーブルに置くと『大丈夫よ』と言って笑ってくれた。
『(なんで…そんなに優しくすんだよ…)』
晴也は涙を堪えた。




