自信
『急に…ごめんな』
資料を理科準備室に置いて教室に戻ろうと廊下を歩いていると晴也が頬をかきながら謝った。
桜泉は首を横に振った。
『先輩の言うことは聞かなきゃいけなくて…それと…確かに桜泉にまだキスしたことないなって…』
桜泉は我慢ができず熱くなった両頬に手を当ててまた首を横に振る。
『桜泉は本当に可愛いよな…』
桜泉はビクッとして晴也の顔を見た。
晴也は少し照れながら笑った。
そうすると桜泉は手話で『晴也もカッコイイよ』と顔を赤くしながら伝えた。
『(か、可愛い…可愛すぎる…)』
晴也は両手で顔を覆った。
『あ、ありがとう…』
教室に戻ると桜泉の机の周りに人が集まっていた。
嫌な予感がした。その子達は笑ったり楽しそうに話している。
足を一歩一歩前に進ませて机に向かった。
その時、後ろにいた晴也が桜泉の手を掴んでグッと後ろに引くと晴也が前を歩いて桜泉の机に先に行った。
『なにしてんのー?』
晴也がいつもの調子でその子達に聞いた。
クラスの人たちはビクッと肩を揺らすと後ろを振り向いて桜泉の机を隠すように体制を変えると『なんでもないよ』と言った。
『どーけーよっ』
晴也は近くの机を足で蹴り飛ばした。
女の子が悲鳴を上げた。
1部の女の子が走って逃げて行った。
『……!』
女の子が隠していた1部が桜泉の視界に入った。
机の上に黒ペンで『死ね』と書かれていたのを桜泉は見てしまったのだ。
『……も、もう行こっ…』
女の子たちは走ってどこかに行ってしまった。
教室には男子がほとんどいて女子が2、3人いた。
桜泉はゆっくり自分の机に向かうと雑巾を取り出して水に濡らし、机の上をゴシゴシと吹き始めた。
死ねという言葉だけでなく他にも辛辣な言葉が書かれていた。
『俺だけじゃ…桜泉のこと守れない…』
晴也も一緒に机を吹いてくれた。
晴也はその言葉を言うと小さな声で『ごめん』と言った。
桜泉は言葉で言えるなら『そんなことない』って言いたかった。
『春屋が悪いんじゃない』って『私が悪い』って言いたかった。
手が震えて手話で伝えられない。
『(迷惑ばっかりかけてる…)』
桜泉は気づいた。いつも隣にいるのは晴也で助けてもらってばっかりでそれに比べて自分は何もしてない。
そう思うと桜泉は全身の力が抜けてその場にしゃがみこんだ。
『桜泉…!?』
晴也は一緒にしゃがんで背中を摩ってくれた。
『(もう…ダメなのかな)』
もし声があるのならこの言葉が零れているのかもしれなかった。




