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さすらいのロザリー  作者: 村松希美


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第一幕 第八章 居場所のない心





晩餐会での失態以降、宿屋「黒猫の亭」の空気は、以前にも増して刺々しく、息の詰まるものへと変わっていた。


ロザリーに対するエレンの嫌がらせは、もはや陰湿な領域を超え、狂気じみた執着を見せ始めていた。


洗濯物に泥を投げつけ、せっかく汲んできた水をわざとひっくり返す。エレンにとって、ロザリーの存在そのものが、自分から「完璧な美しさ」を奪い、恥をかかせた呪いのように感じられていた。


彼女は、鏡を見るたびにあの夜の少年の軽蔑に満ちた目を思い出し、その怒りのすべてをロザリーへとぶつけた。相手を不幸にしなければ、自分の心の均衡が保てない――そんな地獄のような精神状態に、エレンは陥っていた。


女将のバーバラもまた、ロザリーの「反抗」を見逃してはいなかった。


酒蔵の事件、そして晩餐会での不審な動き。彼女はロザリーの瞳に宿った、消えることのない意志の光が不気味でならなかった。


「この小娘は、ただの使い走りには収まらない。いつか、私の首を絞める毒蛇になる」

バーバラはロザリーに与える食事をさらに減らし、一日の大半を、光の届かない地下室の掃除に費やさせた。空腹と冷気、そして孤独。それらがロザリーの心を少しずつ蝕み、自尊心を削り取っていくのを、バーバラは冷酷に観察し続けていた。


そんな地獄の中で、ロザリーの唯一の救いは、下町のジムとサムに会いに行く短い時間だけだった。


しかし、最近ではその「救い」ですら、彼女に別の苦しみを与えるようになっていた。



ある夕暮れ、ロザリーは路地裏でジムに字を教えていた。


ジムは相変わらず真剣な眼差しで、土の上に慣れない文字を綴っている。その隣で、サムはロザリーが話す「お菓子の家」の物語を、潤んだ瞳で聞いていた。


「ロザリー、いつか俺たちが大きくなったら、あんたをここから連れ出してやるからな。それまで、負けるなよ」


ジムがふとした拍子に口にした、少年らしい純粋な決意。

その温かさが、今のロザリーにはあまりにも眩しすぎた。


ジムの瞳を見つめながら、ロザリーの胸を締め付けたのは、深い自己嫌悪だった。


(私は、この子たちが思っているような、清らかな『先生』じゃない。エレンに復讐し、誰かを陥れることでしか自分を保てない、醜い心を持った人間なんだ……)


物質的な飢えは、まだ我慢できた。

けれど、自分を「善い人間」だと思い込ませてくれる拠り所を失った精神的な飢えは、彼女の魂を底なしの沼へと引きずり込んでいった。


ジムやサムの隣にいても、自分の心が宿屋の煤に汚され、真っ黒に染まっているように感じられてならない。ここにいてもいいのだろうか。自分のような人間が、この純粋な兄弟に明日を語る資格があるのだろうか。


「……ねえ、ジム。もし私が、あなたが思っているような良い人じゃなかったら、どうする?」

ロザリーが震える声で尋ねると、ジムは不思議そうに首を傾げた。


「何言ってんだよ。あんたがどんなやつだろうと、俺たちに光をくれたのはあんたじゃないか。それだけで十分だ」


ジムの言葉は救いだった。けれど、その救いを受け入れることができないほど、ロザリーの心は摩耗していた。


宿屋に戻れば悪意が待ち構え、下町に来れば自分の醜さに苛まれる。


ロザリーにはもう、どこにも身を置く場所がなかった。


世界はこんなにも広いのに、自分の居場所だけが、雪のように音もなく消えていく。



夜、冷たい地下室で一人うずくまりながら、ロザリーは暗闇を見つめた。

空腹で震える指先を抱きしめ、彼女は初めて、明日が来ないことを願った。


(私は、どこへ行けばいいの? 誰が、この真っ黒に汚れた私を見つけてくれるの?)


心の底から湧き上がる絶望は、誰にも届かない静かな悲鳴となって、冷たい夜気に溶けていった。



限界は、すぐそこまで迫っていた。




あらすじを入力してAIが書きました。


現代日本の私たちから見ると、女将の仕打ちはそれは酷すぎるとなるのかも知れないですが、ロミオの青い空の煙突掃除夫への扱いも、実際にはアニメよりもかなり酷かったようです。

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