第二幕 第十七章 帰る場所
下町の入り口に差し掛かると、冷たく湿った潮風がロザリーの頬を叩きました。
屋敷の石鹸の香りではなく、煤煙と魚の生臭さ、そして人々の生活が放つ荒々しい熱気。それが今のロザリーには、何よりも心地よい「生」の調べに感じられました。
彼女は、かつてジムとサムと文字を練習した、あの木箱の積み上がる路地へと急ぎました。
ジムは、力なく壁に背を預け、凍えた指先を口元で温めていました。
ロザリーがいなくなってからの数週間、彼の心は真っ黒な空洞に飲み込まれていました。
(……結局、あの人は戻ってこなかった。あんな綺麗な字が書けるんだ、きっとどこか遠くの、俺たちの手が届かない綺麗な世界へ行ったんだ。……それでいい。あんなひどい宿屋にいるより、ずっといいはずだ……)
そう自分に言い聞かせながらも、彼の手は無意識に、土の上に「A」の文字をなぞっていました。彼女が教えてくれた文字。それは、彼にとって唯一の、世界と繋がる細い糸でした。
(でも、寂しいよ。……ロザリー、あんたがいない世界は、前よりもずっと寒くて、暗いんだ)
ジムの目から、一滴の涙がこぼれ、土の上の文字を濡らしました。
サムはジムの隣で、丸まって震えていました。
(ロザリーお姉ちゃん、どこにいるの? どこかで美味しいパンを食べて、笑ってる? ……僕、もう物語の続きを忘れちゃいそうだよ。お姉ちゃんの声が聞きたいよ……)
小さなサムにとって、ロザリーは単なる先生ではなく、失った母親の面影を重ねる存在でした。彼は、ロザリーが最後に座っていた木箱を、今も大切に守るように座り続けていました。
そこへ、雪を踏みしめる確かな足音が近づいてきました。
「……ジム! サム!」
聞き間違えるはずのない、鈴の音のように澄んだ声。
二人が弾かれたように顔を上げると、そこには、真っ白な息を吐きながら、光り輝くような笑顔でこちらへ駆けてくるロザリーの姿がありました。
二人の姿を見つけた瞬間、ロザリーの胸を締め付けていた罪悪感と孤独が、一気に涙となって溢れ出しました。
(ああ、いた……。私の、守るべき場所。私の、愛する人たち!)
ロザリーは二人を力一杯抱きしめました。コートに付いた雪が溶け、二人の汚れた服を濡らしても、彼女は構いませんでした。
(私はもう、迷わない。たとえこの先、どんなに空腹になろうとも、どんなに寒さに震えようとも。この温もりを、二人のこの小さな手を、私は一生離さない)
ロザリーの心は、屋敷にいた時よりもずっと、満ち足りた幸福感で満たされていました。
物質的な豊かさでは決して得られない、魂の充足。それが、彼女の本当の「帰る場所」だったのです。
「……遅くなって、ごめんなさい。……ただいま、ジム。ただいま、サム」
「……ロザリー! あんた、馬鹿かよ……! どこ行ってたんだよ!」
ジムは、怒鳴りながらも、彼女のコートを離すまいと強く握りしめました。その拳の震えが、ロザリーには何よりも愛おしく感じられました。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん、おかえりなさい!」
サムは声を上げて泣きじゃくり、ロザリーの胸に顔を埋めました。
雪の降る下町の片隅。
そこには、黄金も真珠もありませんでした。
けれど、三人の間には、何ものにも代えがたい「愛」という名の光が、宝石よりも眩しく輝いていました。
あらすじを入力してAIが書きました。
ジャックと出会うまでの物語はできていましたが、その後の物語はAIが作りました。
この章もAIが考えた物語です。




