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95 王城の地下


 アイ達が、プリン達の元へと向かっているちょうどその時、キッシュの館に一人の来訪者があった。


 その人物はぼろぼろの黒いフード付きのコートを着ており、みるからに怪しかったため、衛兵に呼び止められた。


「おい、止まれ。こんな時間に何をうろついている?」


「キッシュ殿下かソロンはいるか?」


「質問に答えろ」


 衛兵がその人物を見ると、フードを被っていて見えづらくはあったが、右目に黒い眼帯をしているようだった。


「おい、どうした?」


 そんなところにソロンが、敷地の中から塀を超えて、突然現れた。


「ソロンさん。怪しい奴がうろついているんです」


「お~?おいお前、顔見せてみろ」


 ソロンがそう言うと、男はフードを外した。

 ソロンはその男に見覚えがあった。


「お前……ネロ!無事だったのか!」


「久しいな、ソロン」


「どうした、ずいぶん男前になったじゃねえか」


 ソロンは、ネロが眼帯をしているのを見て、そう言った。

 ソロンは感じ取っていた。半端な怪我で眼帯をつけるような奴ではない。ネロは片目を怪我で失ったのだ。


「そうだろう。海賊にでも転職しようと思ってな」


 ネロは、今までの無表情を崩して、ふっと笑ってソロンと握手してから再会を喜び抱き合った。

 ソロンは衛兵に軽く手で、戻っていいと合図をすると、衛兵たちは肩をすくめて持ち場に戻った。


「アイ様は?」


「安心しろ。お前がお熱の女は無事だ。だが、今は野暮用で出かけている」


「そうか……安心した。ここにいれば大丈夫だろう」


「中でゆっくりしていけ、と言いたいところだが、実は俺もこれから仕事でね。どうだ?行きがけにいろいろ話してやるから、俺の仕事を手伝うっていうのは」


「いいだろう。一刻も早く話を聞きたいしな」


 ソロンが再び塀の上へと跳躍すると、ネロも同じように飛び乗り、その後をついて行ったのだった。




 王城の地下へ続く、長い、長い階段は、その存在をほとんどの人間に知られておらず、そこへ続く扉が開けられることもほとんどなかった。

 その扉を開けられるのは、王と、その後継者たちだけ。


 しかし、今晩、何十年かの時を経て、第二王子、ローストが、その扉を開けた。

 その傍らには、婚約者であるマドレーヌと、ローストの近衛兵が数人。


「しかし……こんな夜中でなくてはならないのか?」


 一行は、扉を開け、中へ入り、階段を降りはじめた。


「ええ。その通りですわ、ロズ。二人でどこかにでかけたら、私たちはそれだけで目立ってしまうじゃない」


 マドレーヌは赤い片目を光らせ、ローストをなだめる。

 マドレーヌは平静を装っていたが、心の内でははらわたが煮えくり返っていた。

 あの、役立たずの、噓つきめ……!

 ミストは、アイの暗殺を依頼してから、マドレーヌに全く連絡をしてこなかった。

 結社としては、アイがどうなるかはあまり気にしていないようだから、ミストも上から言われない限りは、力を入れていないのだろう。

 この私の苦労も知らずに!

 ミストがアイを殺してから計画を実行しようとしていたマドレーヌだったが、そもそもミストが動かないのなら、時間が経つほどマドレーヌの危険は増してしまう。

 それなら、いっそとしびれを切らし、マドレーヌは今日の夜中に動くことにしたのだった。


 階段の半ばまで来た。

 筒状の空洞の、壁に沿うように作られたらせん状の階段は、あまりにも長く、下は暗くて見えない。

 手すりなどなく、落ちたら即死だ。


 足音を響かせて下へ降りていくマドレーヌたちだったが、ふと後ろから駆けてくる足音に気づいた。


「誰だ……!」


 マドレーヌは警戒心をあらわにした。


「警戒しろ!」


 ローストに連れられて来ていた近衛兵たちは、自分たちがなぜここに連れてこられているかもわかっていなかったので、士気は低かった。

 マドレーヌはそれを見抜いていたので、指示を出さないローストの代わりに、近衛兵たちにそう指示を出した。


 暗闇の中から、マドレーヌ達に追い付いてきたのは、なんとマドレーヌの身の回りの世話をしていたメイド、シロだった。


「シロ……?」


 マドレーヌはそう言ったが、シロはいつもと明らかに様子が違った。

 身に着けているメイド服は同じだが、髪の毛はぼさぼさになっており、嫌悪感丸出しの自信ありげな表情は、シロの普段のおどおどした性格とは真逆だった。


「マドレーヌうぅ……退屈だったぜぇ?俺はよぉ」


「シロ……どういうつもり?ここは貴女が来ていいところじゃない。戻りなさい」


 近衛兵たちの後ろから、マドレーヌは警告した。


「来る日も来る日もお前の世話ばかり。ったく良く飽きねえよな?貴族とか、王族とかってのはよ。代り映えしない日々っていうのか」


「……シロ、聞いているの?戻りなさい!」


「マドレーヌ、お前が動いてくれてよかったぜ。ようやくお役目から解放される」


「まさかお前……私を見張っていたの?」


 マドレーヌは驚愕した。

 マドレーヌでも、ある程度は自分が見張られていれば、それに気づく自信があった。

 しかし、シロからはそれをまったく感じなかったのだ。


「あはは!いい反応だから教えてやるよぉ~。お前の世話をしていたシロは何にも知らねぇ。普通に仕事と思ってお前の世話をしていたさ。だが俺はノワール。シロとは別人だ!」


「二重人格か……油断した」


 別の人格がシロの影に隠れて、ずっとマドレーヌを監視していた。

 そういうことであれば、気づくはずもなかった。


「種明かしをありがとう。じゃあ死んで。近衛兵、やれ!!ロースト様に仇なすものだぞ!」


 狭い階段の上で、近衛兵が剣を抜き、ノワールに斬りかかった。

 ノワールは軽く避けると、壁を背にして、近衛兵の一人に蹴りを入れた。


「うわぁぁあぁ~~~~!!」


 階段から落ち、暗闇の中に落下していく近衛兵の悲鳴はみるみる遠ざかり、地面に物が叩きつけられるビタンという音とともに、悲鳴は止まった。


「ロズ、降りますよ。ここは危険です!」


「あ、あぁ……そうだな」


 マドレーヌはローストを引き連れ、近衛兵たちに後を任せると、どんどんと下へと階段を下りて行った。


「お゛い待てやゴラァ!!」


 野蛮にも叫ぶノワールだったが、近衛兵に遮られ、その相手をしなくてはならず、すぐには後を追えなかった。



 階段を降りきると、金属製のゲートがあり、ローストが持って来た鍵でそのゲートを開いた。

 マドレーヌ達は地下通路を進んで行く。

 その先に、ドーム状の広い空間があった。

 その中央には、台座の上に、不思議にもくるくると宙に浮いた、美しい槍が保管されていた。


「あった……!神槍”ベレロポーン”!」


 マドレーヌは台座に近づき、槍を手にした。

 そのやりは、美しい金の装飾がされていたが、先端の刃は鋭く、青白く光り輝いていた。


「さぁロズ。これを持って」


 マドレーヌは槍を、ローストに渡した。


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