48 魔物の巣
「この辺りに巣があるはずだな」
シードルがそう言うと、シェリーは杖を掲げ、目を瞑った。
「こっちかなぁ~」
自信なさげに、シェリーは木々の間を進み始めた。
「巣には魔力が宿ってるから、シェリーがいてくれないと探すのは大変なんだ」
スティルはアイにそう説明した。
アイも魔法が使えるが、杖みたいなものは使っていないし、魔力というのもよくわからなかった。
「それにしても、アイさんが魔法を使えたとはねぇ」
「うーん……魔法は使えるんですけど、魔力とかはよくわからないですね」
「じゃあ遺伝ってわけだね」
スティルがそう答えた。
「そうかも?遺伝じゃないのもあるんですか?」
「ああ。シェリーのは遺伝じゃないよ。魔力は誰にでもあって、練習すれば大なり小なりは使える。でも素養が無ければ大した魔法は使えなから、俺やシードルみたいに身体を鍛えたほうが早いってやつも多いのさ」
「なるほど」
全く知らずに魔法を使っていたアイは、それを聞いてさらに好奇心がそそられた。
「じゃあ、遺伝で魔法を使える人たちはなんなの?」
「知らないのか?自分もそうなんだろう?」
「いろいろ、複雑で……あはは」
アイは誤魔化してそう笑った。
「遺伝で使える子は、決まった属性の魔法しか使えない代わりに、あまり修練を積まずに使えるし、強大な魔力を持ってるんだ。先祖代々伝わっていることもあって、貴族の家柄などに多いんだ」
「紅蓮騎士団は?みんなそういう人ってこと?」
「いや、聞いた話だが、後天的に身に着けた団員もいるらしい。その分、他の能力が優れているんだろう」
「ふむふむ……じゃあ、万能魔法は?」
「万能の魔女は知っているのか。後天的に……遺伝じゃないにもかかわらず、ありとあらゆる魔法の素養があり、強大な魔力を持っている……それが万能の魔女だ。万能魔法っていうくくりは無いな」
「有名なんだ?」
「有名も有名。というか、伝説だな。実在も不確かな存在だ。魔法使いの格としては……万能の魔女が一番上にいて、その次が遺伝で魔法を使える、”ジェネティック”。そして後天的に魔法を使えるいわゆる普通の魔法使いって感じか」
「ふふん……私は会ったことあるよ?モカっていうんだ。万能の魔女はね」
伝説扱いされているのを聞いて、ついアイは自慢した。
「あー……言いづらいが、万能の魔女は本当にいるかもわからないんだ。目撃証言はあるが、大体は嘘ばっかりさ」
気まずそうにスティルは言った。
「本当だよ?!本当に会ったんだから!」
「はいはい」
スティルは信じてくれず、アイはふてくされた。
「二人とも、あったよ~」
シェリーに呼ばれ、二人は急いでそっちへ向かった。
一本の太い木の幹に大きな空洞があり、その中に、掌に収まるほどの大きさの、黒く光る宝石の結晶のようなものがあった。
宝石の中と周囲には、黒い光が渦巻いており、禍々しい雰囲気を感じさせる。
「アイ、これが魔物の巣だよ」
「巣?宝石みたいだけど」
「あくまで巣っていうのは、その周辺に魔物が出るってことから来てる例えなんだ」
巣と呼ばれた結晶を取り出しながら、シードルは言った。
「そしてこれを、こうする」
シードルは取り出した結晶を地面に置くと、剣を構え、叩き割った。
バリィン!と音を立て、巣は砕け散った。
「砕けば、依頼は完了だ。こうして砕いておくことで、しばらく魔物を生み出す力は無くなる。これを組合へ持って行けば、依頼の証明にもなるっていうわけだな」
シードルは砕いた巣をアイに見せてから、布の袋にしまった。
「組合に渡した後、巣はどうなるの?」
アイがそう聞くと、三人はしばし顔を見合わせた。
「さぁ?そこまでは考えたことがなかったな……きっと魔法を使って、魔物を生み出せないようにしているんだと思うが……」
シードルは自信なさげにそう言った。
次の街へ着くと、シードルたちはまず冒険者組合へ向かい、依頼の達成報酬を得た。
「俺たちにしちゃあ、ちょっと難し目の依頼だったが、何とかなったな!おかげで報酬もばっちりだ!」
スティルは上機嫌だった。
「そうだ。アイさん、君も冒険者として登録をしないか?」
突然、シードルはそんな提案をした。
「えっ……でも……いいのかな」
アイは、正直に言えば登録してみたくてたまらなかったが、本名で登録するわけにもいかない。
するとスティルはアイに声を潜めて囁いた。
「あぁ、実際冒険者ってのはならずものばっかりだ。そんな奴らへの救済措置でもある。つまり……わかるかい?偽名を使ってる奴なんて一杯いるんだよ」
「へ、平気でしょうか?」
そう聞きつつも、アイはもはや登録する気満々だった。
アイは受付から用紙を渡され、そこへ羽根ペンを使い、記入した。
名前は……グレイス。何となく、氷とガラスが似ている感じがするし、この世界の名前は変なのが多いから、なんとかなるだろう。
アイはグレイス・グラスワークという名前で登録した。
自身の住所は冒険者らしく、特に記載の必要がないらしい。
代わりに何かあった時の連絡先の住所……これは自分の家は書けないので、グレイの家のことでも書いておこう。
主要な武器、なし。魔法を使う……丸。ジェネティックですか?……丸。その場合の属性……氷。
自分の身の上というよりは、依頼にマッチするか探すための、長所を書かされるようなところが多かった。
「見合わないやつが依頼を持ってきても、安全上の理由で、受けさせてもらえないこともあるからな。多少は盛って書くのがセオリーだぜ」
アイは、履歴書みたいだなと思いながら、用紙を書き上げた。
受付の女性はてきぱきと用紙をチェックし、ばちん、と力強く判を押すと、ファイルに用紙を閉じた。
そして、シェリーがもっているような小さな杖を、小さな金属片の上に滑らすと、火花が散り、名前が刻まれた。
そこにはグレイスという名前と、街の名前、冒険者組合所属であるということが刻まれた。
金属片には小さな鎖がついており、首から掛けられるようになっていた。
「はい、タグをどうぞ。これで、完了です。このまま依頼を受けたい場合は、あちらのボードに張り出されたものから選んで、番号を控えたらまた並んでください。お疲れ様でした」
アイが首にタグをかけて戻ると、スティルたちがアイを迎えた。
「よかったな!アイ……グレイス。これで晴れて冒険者、ならず者たちの仲間入りだ」
「うん、ありがとう!」
アイは素直に喜んだ。
冒険者、男であれば一度は憧れるものだろう。
アイはゲームの中にでも入ったようで、少し誇らしい気分になっていた。
「さて、次の依頼を選んで、シードルが受けたら、今日はここに泊まってから、次の街を目指そう」
「あ、そうだ。これを」
シードルが、懐から小さな布袋を取り出し、アイに渡した。
「へ?何コレ」
「今回の報酬だ。俺たちのルールは均等に山分けだからな。全会一致で、アイにも渡すことにした」
「当然。助けてもらっちゃったんだから」
シェリーもそう言って笑った。
アイは喜んで受け取った。
それはアイが、この世界で初めて、自分で稼いだ報酬だった。




