49 シェリー
宿屋に行く前に、アイはシェリーに呼び止められた。
「アイ、ちょっと」
「俺たちは先に行っているぞ」
シードルとスティルは、アイとシェリーを置いて先に宿屋へと向かった。
「どうしたの?シェリー」
「ちょっと買い物に付き合って」
そう言われアイがついて行くと、そこは革や布の防具を売っている防具屋だった。
「アイは目立つの嫌いそうだし?だったら少し、冒険者らしくしないとね」
アイはシェリーから借りた、フード付きのケープを身に着けていたが、その下は普段着のままだった。
「やっぱり、目立つかな」
「目立ってたよ、組合でも。ほら、これなんてどうかな」
シェリーは、淡い水色のケープを選び、アイの肩に当てて合わせた。
「対魔法繊維織り込みのケープ、それと、これ」
それは白い革の手袋だった。
「これは耐寒性アリ、自分の氷に触れてもしもやけにならないよ」
「おぉー……」
アイは素直に喜んだ。
氷剣を作って自分で持つと、凍傷になるほど冷たい。
「これと……これも」
革のコルセットのような、胴を守る装備と、革のベルト。
「あー、靴もだ。そんな歩きづらいのはダメ。皮のブーツ、上までしっかり紐で結ぶ!」
既にアイには何も持てなくなっていたので、シェリーは自分で持って、店主のところへ向かった。
「足りない分はだしておくよ」
「そんな……」
「もちろん、きっちり覚えて返してもらうから。次の街でね」
シェリーはそう言って、ウインクした。
買った装備に着替えて、アイがシェリーと二人で宿屋に行くと、既にシードルたちは部屋を二つとっていたようで、アイとシェリーは一緒に部屋に入った。
「うーん……!久しぶりに、あのバカ二人と離れて眠れる……!」
シェリーはベッドに飛び込むと伸びをしながらそう言った。
「いつもは三人一部屋なんだ?」
「うんうん。アンタがいるからじゃない?二部屋なんて気を利かせて、色気づいちゃってさぁ。でもおかげさまで、ゆったり使える~!」
シェリーは嬉しそうだ。
いや、待て。
アイは忘れそうになっていたことを思い出した。
いや、俺も男なんだよ。
エスやネロたちと、屋敷に戻ろうと旅をしていたときは、お嬢様だけあって、一人で過ごすどころか、交代で一人が部屋の前で見張るほどだった。
いっそ、男どもに囲まれて寝た所で、アイは気にしない。
だが、これはどうだろう。
アイの中身が男だと知らない女と、同室で寝るというのは。
何だかまずいことをしている気がする!
アイは罪悪感に駆られた。
「あの~やっぱり私、シードルたちと一緒の部屋で、いいです」
「は、はぁ?!どういうこと?」
シェリーは当然の反応をした。
立ち上がって、アイの方へ詰め寄る。
「何々?え?そういう……そういうの慣れてるの?男の子と……そういう……会ったらすぐ……しちゃうわけ?しかも二人?二人と?」
「違う!違います!想像してるのとは全然違います!」
「そ、そうなんだ?じゃあなに?私か?私と一緒がすごくイヤなの?」
「嫌じゃないです!嫌じゃない!けど色々……色々ありまして……」
アイは後悔した。明らかに切り出し方を間違えた。
と、いうより、どう転んでもアイと男二人が同室で、シェリーが一人で部屋を使うなんて方向に持って行けるはずがなかったのだ。
「つまりあれです、正確に言うなら……そうですね……シェリーさんが綺麗だから、緊張しちゃって、同室は恐れ多いというか……」
「へ?」
「嘘はついてないです!」
実は元々男だということを明かさずに、今の状況を伝えるなら、これが一番正しいはずだ。
アイはそう確信して、できる限り素直に伝えた。
「ふ、ふぅ~ん」
シェリーは本当かどうか確かめるように、アイの目をじっと見た。
アイも負けじと、これは本心だとばかりに、その目をじっと見返した。
「な、る、ほ、どぉ~……アイちゃん、女の子もイケるタイプなんだ」
シェリーは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「え?あ、それは、そうといえばそう……」
間違ってはいない、だが正直に言う必要も全くない。アイは混乱して口ごもる。
「あはは、なーんか新鮮。私普段からさ、あのバカ二人と行動していると、自分が女だってこと忘れそうになるから」
「ええ、そんなことあるんですか」
「うん。だってあいつら私のこと女扱いしないし。されても面倒なんだけどね。それが、女の子とはいえ、こんな初心な反応されちゃ……こっちまで照れちゃうよ」
シェリーはそう言って、再びベッドに飛び込んだ。
「大丈夫。お互いゆっくり過ごそうよ。アイが何か思ってても、私は気にしないし。何もしないよ。それとも、何かして欲しい?」
シェリーはそう言っていたずらっぽく笑った。
「いやいやいや、大丈夫、大丈夫です」
赤面して必死で否定するアイを見て、シェリーは少し安心して、また笑った。




